「病態が大事」って言うけど、結局「どこが痛いか」だけじゃないですか? 〜病態と病態生理の違い〜

「病態が大事」って言うけど、結局「どこが痛いか」 だけじゃないですか?  〜病態と病態生理の違い〜

こんにちは、理学療法士の大塚です。 先日セミナー中に、受講生からこんな質問を受けました。

「1年目なんですが、先輩から『もっと病態を理解しろ』とよく言われます。でも、勉強すればするほど、病態って『組織の炎症』とか『どこの靭帯が損傷しているか』という話になりがちで…。」

「でも、それって、医師の診断と何が違うんでしょうか? 私たちの介入とどう繋がるのか、イマイチ分かりません。」

これは、本当に多くの方が通る道だと思います。 そのモヤモヤは、私たちが「病態」という言葉を2つの異なる意味で使っていることから来ています。

今日は、「病態が大事」という言葉の、2つの意味についてお話しします。

1. まずは言葉の整理:「病態」と「病態生理」

私たちが臨床で使う「病態の理解」には、実は2つのレベルがあります。

レベル1:局所の「病態(状態)」の把握

  • 定義: 「病気による構造的・機能的な変化」(例:組織の炎症、損傷、変性)
  • 目的: 痛みや機能不全の「直接的な原因」を特定し、リスク管理(悪化させない)を行うため。
  • (多くの若手療法士が「病態」と聞いてイメージする、局所的な問題です)

レベル2:根本原因の「病態生理(メカニズム)」の把握

  • 定義: 「正常機能(生理学)が破綻し、その状態に至った機序(メカニズム)
  • 目的: なぜその局所に負担がかかったのか(例:不良な動作パターン、心理的要因、環境要因)という「根本的な原因」を特定し、介入(根本的介入・再発予防)を行うため。

「病態生理」とは、簡単に言えば「なぜ、そうなったのか?」というストーリーや仕組みのことです。

2. レベル1:「局所の病態」はなぜ大事か?(=リスク管理)

まず、先輩たちが強調するレベル1の「局所的な病態」の理解は、療法士の土台であり、超重要です。

なぜなら、それがリスク管理のすべてだからです。

例:変形性膝関節症のAさん

  • 局所の病態 (レベル1): 膝の関節包に強い炎症が起きている(熱感・腫れ・安静時痛がある)。
  • やるべき介入: まずは炎症を抑えること。アイシングや物理療法、負荷をかけない運動が中心です。
  • やってはいけない介入: この状態で「筋力が足りないから」とスクワットをガンガンやらせたら、炎症は悪化し、患者さんの信頼を失います。

「今、体の中で何が起こっているのか?(炎症)」を把握し、悪化させないこと。これが、レベル1の理解の最大の目的です。

3. レベル2:「病態生理」はなぜもっと大事か?(=根本介入)

では、Aさんの炎症が薬や安静で治まったとします。「はい、終わり」で良いでしょうか?

多くの場合、また同じように膝を使って生活すれば、炎症は再発します

ここで、最初の質問に戻ります。 「炎症を抑える」だけなら、それは医師の投薬や注射がメインの仕事かもしれません。

私たち理学療法士の本当の専門性は、レベル2の「病態生理(なぜ、そうなったか?)」を解明することにあります。

「なぜ、Aさんは膝に炎症を起こすほど負担をかけてしまったのか?」

この「なぜ?」こそが、私たちが介入すべき「根本的な原因」です。

4. 国際標準は「病態生理」を全体で見る!(BPSモデル)

現在のリハビリテーションの国際的なスタンダードは、「生物心理社会モデル(BPSモデル)」という考え方です。 これは、レベル2の「病態生理(メカニズム)」を、身体だけでなく心理・環境まで含めて「全体的」に捉える考え方です。

  • 生物 (Bio): 身体そのものの問題(例:炎症、筋力、動作のクセ)
  • 心理 (Psycho): その人の考え方、信念、恐怖心
  • 社会 (Social): その人の環境、仕事、人間関係

具体例:休職中の慢性腰痛患者 Bさん(45歳)

Bさんの「局所の病態(レベル1)」は「非特異的腰痛」だとします。これだけでは何も治療できません。
BPSモデルで「病態生理(レベル2)」を見てみましょう。

  • 生物 (Bio) – 機能: 立ち上がる時に腰を「ガチガチに固める(Bracing)」という、非効率で負担の大きい動作のクセがある。
  • 心理 (Psycho): 過去に「腰椎の変形が始まっている」と診断され、「腰を曲げたら悪化する」という強い恐怖心を持っている。
  • 社会 (Social): 仕事はドライバー。トラックのシートが体に合っておらず、骨盤が傾いたまま運転している。休職中で「早く復帰しないと家族を養えない」という強い焦りがある。

5. 私たちの「本当の病態理解」とは?

Bさんのケースが見えてきましたか? Bさんの腰痛の「本当の病態生理(メカニズム)」は、腰そのものにあるのでしょうか?

違いますよね。

  1. 環境 (Social) + 心理 (Psycho): 合わないシートと「怖い」という恐怖心
  2. 神経系: この2つのせいで、脳(神経系)が「腰を守れ!」とエラーを起こし、「ガチガチに固める」という防御的な動作プログラムを選択します。
  3. 機能 (Bio): その結果、「ガチガチに固める」という非効率な動作のクセ(機能的問題)が生まれます。
  4. 局所 (Bio): その動作を繰り返すことで、腰の筋肉に過剰な負担がかかり続け、炎症や痛みが慢性化します。(=レベル1の局所の病態の完成)

このBさんに対し、療法士が「局所(レベル1)」だけを見て「腰に介入する」だけでは、その場しのぎにしかなりません。

私たちの専門性は、局所の炎症(レベル1)を理解した上で、その根本原因(レベル2)に介入することです。

  • 心理 (Psycho): 「曲げても大丈夫ですよ」という教育(疼痛科学)や段階的な運動で恐怖心を取り除く
  • 環境 (Social): トラックのシートに置くクッションを指導し、社長と段階的な復職プランを相談する。
  • 機能 (Bio): 「ガチガチ」ではない、効率的な立ち上がり動作を再学習してもらう。

ここまで介入して初めて、根本的な改善と再発予防(=HOPEの達成)が可能になります。

6. まとめ

先輩の言う「病態が大事」は、 「レベル1(局所の病態)を正確に評価してリスク管理し、同時に、その原因であるレベル2(病態生理=機能・心理・環境)を解明して介入しろ」 という意味です。

本記事のポイント

  • レベル1(局所)の理解 = 安全に治療するための「ブレーキ」
  • レベル2(全体)の理解 = 根本的に介入ための「アクセル」

明日からの臨床で、

「この人の膝はなぜ炎症を起こしたんだろう?」

「この人の腰痛は、どんな環境や恐怖心が隠れているんだろう?」

と、患者さんの生活や言葉に一歩踏み込んでみてください。

そこからが、疾患ではなく「その人自身」をみるという、療法士の仕事の本当の始まりだと僕は考えています。

この記事では、病態を「レベル1(局所)」と「レベル2(全体)」で捉える思考法を解説しました。

この両レベルを評価するために不可欠なのが、「触診」の技術です。
レベル1の「炎症(熱感・腫脹)」を捉える技術、そしてレベル2の「動作のクセ(筋の過緊張・滑走不全)」を感じ取る技術を磨きませんか?

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