運動連鎖で考えるトレンデンブルグ歩行
中臀筋の筋トレしても歩行が変わらない!!ってありますよね?どうしてますか?
- とりあえず筋トレ継続
- バランス練習
- 動作練習
イマイチ効果が出ない時は他の部位を観てみましょう。「歩行は全身の協奏曲」と言われるように、トレンデンブルグ(股関節)の問題は決して股関節だけで完結しません。
トレンデンブルグやデュシェンヌといった現象を、足元からの「上行性」の影響と、頭部・視線からの「下降性」の影響という、運動連鎖の視点で紐解いてみましょう。
【この記事の要約】
- 歩行は全身運動: トレンデンブルグ歩行の改善には、股関節だけでなく足部(上行性)と頭部(下行性)の評価が必須です。
- 運動連鎖の影響: 足部の過回内やアーチ不全、頭部位置や視線のブレが、股関節の機能不全を誘発します。
- 立ち直り反応の理解: 異常歩行は筋力不足だけでなく、脳が頭部を水平に保とうとする「立ち直り反応」による代償でもあります。
なぜ足部と頭部なのか?
それは感覚の入力地点と出力地点となるからです。
- 足部: メカノレセプターによる入力と足関節戦略(Ankle Strategy)による出力
- 頭部: 前庭、視覚による入力と立ち直りによる出力
つまり問題と結果が両方出る部位になります。
足部からの影響:上行性運動連鎖
土台である足部の崩れは、最終的に股関節の不安定性を増幅させます。
1) 過回内(オーバープロネーション)の影響
足部が内側に傾く(内側縦アーチの崩れ)と、脛骨は内旋し、それに連動して大腿骨も内旋します。
大腿骨が内旋すると、中臀筋が引き伸ばされて力が入りにくい「緩みの位置」になってしまいます。これにより、筋力自体はあっても機能的にトレンデンブルグ歩行を誘発してしまいます。
2) 荷重感覚の消失
足裏の荷重ポイントが内側に偏りすぎると、メカノレセプターの豊富な外側のライン(小趾側)での荷重感覚が失われ、結果として骨盤の荷重感覚が損なわれます。
結果として骨盤を荷重しない運動パターンが選択されデュシェンヌ歩行となりやすいです。(骨盤側方移動の制限)
この2つのパターンに影響しやすいのが横アーチの不全になります。
以前のコラムでお伝えしましたが、横アーチの機能とは側方動揺の補正と感覚入力になります。
横アーチがあることで足部での側方動揺を制御し骨盤の荷重をコントロールします。
頭部・視線からの制御:下行性運動連鎖
司令塔である頭部の位置は、重心位置を決定する重要要素になります。
- 頭部の重みとデュシェンヌ:
成人の頭部(約5kg)は、体幹の最上部にある「重り」です。デュシェンヌ歩行では、この重い頭部を含めた上半身をあえて支持側の外(患側)に送ることで、重心を股関節(支点)の上に近づけ、中臀筋への負担を減らすという物理的な代償戦略をとっています。 - 視線と前庭システムの関与:
視線が定まらなかったり、頭部が過度に揺れたり(ヘッドコントロールの欠如)すると、脳は「平衡感覚の危機」を感じます。脳は安全を優先し、股関節を固めたり、あるいは大きく振ってバランスをとるという代償戦略を選択します。
顎位(がくい)の影響
食いしばりや頭部の前出し姿勢は、頚部から体幹の筋緊張を変化させます。これが骨盤の前後傾に影響し、中臀筋が最も働きやすい中間位を維持するのを邪魔してしまいます。
骨盤の安定した荷重とは?
上からの重み(頭部)と下からの反力(足部)がぶつかり合うのが股関節です。
足裏で地面を捉える「地面の感覚」と、頭を正中位で保つ。
この上下両方向からのアプローチが、安定した骨盤の荷重を促します。
足部が不安定で、かつ頭部がフラフラしている状態では、股関節のインナーマッスルは「どちらを優先して支えればいいのか」混乱し、フリーズしてしまいます。異常歩行は、単なる筋力不足ではなく、脳が「頭部を水平に保とうとした結果」でもあります。
そこで歩行の安定性を司る「自動制御システム」である立ち直り反応(Righting Reaction)が大事になります。
これまでの運動連鎖が「構造(ハードウェア)」の話だとすれば、立ち直り反応は「神経(ソフトウェア)」の話です。
立ち直り反応(Righting Reaction)
頭部を水平に保つ「本能」で頭の位置を自動補正します。
人間には、体幹がどれだけ傾いても「視覚・前庭・体性感覚などの情報を統合し、視線と頭(耳石)を地面に対して水平・正中位に保とうとする」本能的な立ち直り反応が備わっています。
「インナー」が反応の感度を上げる
立ち直り反応がスムーズに働くためには、股関節インナーマッスル、仙腸関節から位置覚、運動覚(体性感覚)が不可欠です。
デュシェンヌ歩行では
上体を大きく倒した際、そのままでは視界も斜めになってしまいます。そこで脳は、頭を反対側に立ち直らせることで自動補正し、頭部を垂直に保とうとします。
結果、体は傾くが首から上は正中位という不自然な姿勢(補償パターン)が出現することがあります。
トレンデンブルグ歩行では
骨盤が傾くと体幹は一度健側に傾こうとします。しかし、脳が「頭の水平」を守るために、脊柱を二次的に湾曲させてバランスを取ろうとします。これが、歩行時の側弯(背骨の左右への揺れ)を生む一つの要因として観察されることがあります。
評価→アプローチ→再評価
股関節骨盤の状態が良いのに骨盤荷重が上手く出来ない(トレンデンブルグ、デュシェンヌ)
- 運動連鎖を考えて評価
→入力、出力地点である足部と頭部に着目
・足部: アーチ(特に横アーチ)
・頭部: 立ち直り反応 - 各部位にアプローチした後、荷重感覚の促通を図る
例: 側方リーチ - 歩行時の変化を再評価
【まとめ】
トレンデンブルグやデュシェンヌ歩行は、以下の要素が絡み合った複雑な現象です。
- 中臀筋の出力不足(エンジンの欠陥)
- インナーマッスルの固定力不足(関節の緩み)
- 荷重伝達と感覚のエラー(地面を踏む手応えの喪失)
- 上行性・下行性の運動連鎖(上下からのドミノ倒し)
- 立ち直り反応による代償(頭を水平に保つための代償)
足裏から頭部までの連鎖を整え、脳が「ここに乗れば安全だ」と確信できる正しい荷重感覚と立ち直り反応を再構築することが重要となります。
環境・個人因子への着目
身体機能へのアプローチで変化が乏しいなどあれば、環境、個人因子も考えてみましょう。
- 例えば靴 → 「靴の減り方」チェック
・ポイント: デュシェンヌやトレンデンブルグ傾向がある人は、足の外側ばかり減る、あるいは極端に左右差が出る。
・理由: 荷重伝達が外側に逃げたり、骨盤の揺れを足元で無理やり止めようとするため。
[感覚入力と運動連鎖習得シリーズ]
骨構造による運動連鎖、つまりルール。
ルール(原理、原則)を知ると問題点の繋がりが観える。
この観察、評価、アプローチの方法をお伝えします。







