こんにちは、理学療法士の大塚です。
突然ですが、あなたはこんな経験はありませんか?
「ROMも改善した、筋力もついた。なのに、患者さんは退院後にまた施設に戻ってしまった」
「リハビリ室では上手く歩けるのに、自宅に帰ると家族が全介助している」
実はこれ、臨床3年目頃までの僕が毎日のように感じていた「ズレ」そのものです。
頑張ってリハビリをして、カルテ上の数値は良くなっている。なのに、患者さんの生活は変わらない。
この「ズレ」の正体が、2027年の介護報酬改定に向けた国の動きを読み解くと、はっきりと見えてきます。今日は、その「ズレ」の構造と、これからの療法士に求められる視点についてお話しします。
この記事の結論(3行まとめ)
- 国の方向性は「身体機能改善」から「生活機能・社会参加」へ明確にシフトしている。
- 療法士の価値は「毎回治療する人」から「生活を続けられるように設計する人」へ変わりつつある。
- これからの臨床では「評価」こそが最大の付加価値であり、AIにも代替されにくい専門性の核になる。
「やった量」から「出した結果」へ——国が示す方向転換
厚生労働省の社会保障審議会 介護給付費分科会で、2027年度の介護報酬改定に向けた議論が進んでいます。
その資料を読んでいると、繰り返し登場するキーワードがあります。
「自立支援」
「アウトカム評価」
「地域の実情を踏まえた持続的なサービス提供」
これを噛み砕くと、こういうことです。
「リハビリをどれだけやったか(量)」ではなく、「患者さんがどれだけ良くなったか(結果)」を評価する仕組みへ、舵を切りつつある。
これは過去記事でお伝えしたValue-Based Healthcareの流れとも完全に重なります。世界的にも、WHO(世界保健機関)は「リハビリテーション2030」のなかで、リハビリを「機能(Functioning)」を第三の健康指標として位置づけ、単なる機能回復を超えた「生活・社会参加」の実現を求めています。
そして国内の報酬制度もまた、少しずつ確実にその方向へ動いているのです。
「身体機能」から「生活機能」へ——何が評価されるようになるのか
僕が学生の頃、臨床実習で真っ先に叩き込まれたのは「ROM測定」と「MMT」でした。
関節の角度を測り、筋力を段階評価する。それが「評価」だと思っていた時期が、確かにありました。
もちろん、これらは今でも重要な指標です。
しかし、これからの制度が問うのは、そこから先の話です。
- その可動域・筋力が、ADL(日常生活動作)に活きているか
- ADLを超えて、IADL(手段的日常生活動作)——料理・買い物・外出——に繋がっているか
- さらにその先の、社会参加やQOLが実現されているか
ICF(国際生活機能分類)でいえば、「心身機能・身体構造」の層だけを見ているのではなく、「活動」「参加」の層まで視野を広げているか、という問いです。
僕は整形外科クリニックに勤めていた頃、変形性膝関節症の患者さんにパテラセッティングと大腿四頭筋トレーニングを一生懸命やっていた時期がありました。MMTは改善した。でも、患者さんは「膝が心配で外出が怖い」という気持ちが変わらないままでした。数値は動いたのに、その人の生活は変わっていなかった。この体験が、評価の視点を広げるきっかけになりました。
「毎回治療する」から「どうすれば続けられるか」へ——マネジメントという視点
「治療からマネジメントへ」——この言葉、少し抽象的に聞こえるかもしれません。
でも、臨床の現場に落とし込むと、こういうことです。
従来の発想(治療):
「今日の40分、この患者さんの膝を治療した。来週また来てもらおう」
これからの発想(マネジメント):
「この患者さんが、週に3回の通院が終わったあとも、自宅でセルフケアを続けられるようにするには、何を教え、何を整えるべきか?」
その答えとして浮かび上がるのが、以下の4つのアプローチです。
- セルフマネジメント支援:患者さん自身が「なぜこの運動が必要か」を理解して自分で継続できる状態を作る。Bandura(1997)の自己効力感理論が示すように、「自分にもできる」という確信が習慣化の鍵です。
- 家族教育:介助者が「正しく、無理なく関わる」方法を理解している状態を作る。
- 介護職教育:デイサービスや訪問介護スタッフが日常場面で動きを引き出せるよう、具体的な関わり方を共有する。
- 環境調整:退院先・生活環境を評価し、「その人がその場所で自然に動ける」仕組みを作る。
Lorig & Holman(2003)がセルフマネジメント教育の研究で示したように、患者さんが自己管理能力を持つことが、長期的な生活機能の維持に繋がります。療法士が直接介入できる時間には限りがある以上、「その場の治療」だけではなく「仕組みを設計すること」が、本当のリハビリテーションのアウトカムに近づく道なのです。
「評価」こそが、これからの療法士の最大の武器になる
ここで少し、未来の話をさせてください。
AIが医療・リハビリ分野に入り込み始めています。プログラムの自動生成、データ解析、記録作成——様々な業務が効率化される一方で、ある問いが出てきます。
「療法士にしかできないことは何か?」
僕の答えは「評価」です。
ただし、ここでいう「評価」は、ROMを測ったりMMTをつけたりするという「情報収集」のことではありません。
評価とは「情報を集めること」ではなく、「情報を統合して、その人のために意思決定すること」です。
ROMの数値は機械でも測れます。しかし「その数値が、この患者さんの生活のどの場面でどう問題になっているか」「今介入すべき優先順位はどこか」「この人の心理・環境・価値観を踏まえたとき、最善の一手は何か」——この統合的な判断こそが、人間の療法士にしか担えない仕事です。
Wade(2005)は「リハビリテーションとは、問題解決と教育のプロセスである」と定義しています。そこには必ず「評価→仮説→介入→再評価」のサイクルがあり、そのサイクルを回す「臨床推論」こそが、これからの療法士の核になると僕は考えています。
「ADL自立」だけでは足りない——「続く設計」まで責任を持つ
もう一つ、重要な視点があります。
「患者さんが生活できるようになった」は、ゴールではありません。
これからの療法士が問うべきは、こういうことです。
- 続くか——退院後も、1か月後も、半年後も同じ生活が維持できるか
- 再発しないか——転倒・再入院・機能低下のリスクを減らす設計になっているか
- 家族負担が減るか——患者さん本人だけでなく、ケアをする側の負担まで考慮されているか
これを臨床のカルテ記載に落とし込むとどうなるか。
従来の書き方:
「ROM改善 → 歩行可能」
これからの書き方:
「浴槽またぎ可能 → 家族介助不要 → 入浴頻度向上 → 外出意欲改善」
一見、手間が増えるように見えます。でも実はこれは「何のためのリハビリか」という問いに、最初から答えを持って関わる姿勢そのものです。
患者さんのHOPE(望む生活)から逆算して設計する。ICFの「参加」の層まで視野に入れながら、身体機能という「部品」を使ってどんな「動き(ベクトル)」を作り、その先にどんな「生活(球)」を描くか——この思考の順番が、これからの臨床推論の型です。
「専門職が全部やる時代」は終わる——チームで設計するという発想
もう一つ、大事な変化があります。
「療法士が全部やる」という発想から、「チームで設計する」という発想への転換です。
療法士が1日に関われる時間は、多くても40〜60分程度。残りの23時間は、患者さんは家族や介護職と過ごしています。
だとすれば、その23時間を味方につけない限り、真のアウトカムは出ません。
WHO(2019年)が示す「リハビリテーションシステムのガイド」でも、地域を基盤としたリハビリテーションの担い手として、専門職だけでなくケアワーカー・家族・コミュニティを明示しています。
療法士の役割は「直接介入する人」だけでなく、「チームに技術と方針を伝える人」「環境を設計する人」「患者さんのセルフマネジメント力を育てる人」へと広がっています。
「自分が治した」という感覚は気持ちいいものです。でも、「自分がいなくても続く仕組みを作った」という達成感の方が、患者さんの生活に本当の変化をもたらします。療法士の仕事は「与え続ける人」ではなく「自立を設計する人」へと移っています。
臨床に落とし込む——カルテの書き方が変わると、思考が変わる
では、こうした視点を明日の臨床でどう使えばいいか。
一番シンプルな方法は、カルテの書き方を変えることです。
「膝関節屈曲 120°→130°に改善」で止まるのではなく、
- 「浴槽またぎが可能になった」——ADLへの変化
- 「妻の入浴介助が不要になった」——家族負担の軽減
- 「週2回の入浴が可能になった」——生活習慣の変化
- 「入浴後に近所を散歩するようになった」——社会参加・QOLの変化
ここまで書けたとき、初めて「この介入に意味があった」と言えます。
カルテは「何をやったか」の記録ではなく、「患者さんの生活がどう変わったか」の記録です。この視点で書くようになると、不思議なことに、評価するときの問いが変わります。「今の可動域は何度か」ではなく「この人の今の生活の、どこがどう変わっていないか」という問いで、患者さんを見るようになります。
まとめ——療法士の「価値」はどこに宿るのか
今日お伝えしてきたことを整理すると、こうなります。
- 評価の軸が変わる:身体機能(ROM・MMT)から、生活機能(ADL・IADL・QOL・社会参加)へ。
- 役割が変わる:毎回治療する人から、続く仕組みを設計する人へ。
- 担い手が変わる:専門職が全部やる時代から、家族・介護職・患者自身も含めたチームで設計する時代へ。
そして何より、
評価という「統合的な意思決定」こそが、AIにも代替されにくい療法士の核心的な価値である——と、僕は考えています。
報酬改定の波を「大変だ」と感じるか、「ようやく正しく評価される時代が来た」と受け取るか。
その違いは、日々の臨床で「部品を直す仕事」をしているか、「生活を設計する仕事」をしているか、の違いだと思います。
「患者さんの生活が変わった」と言えるカルテを、明日から一つ増やしてみてください。その積み重ねが、これからの時代を生き抜く療法士の力になります。
もし「評価の仕方がわからない」「HOPEから逆算する思考を身につけたい」と感じているなら、ぜひ一度療活のセミナーに来てください。あなたの臨床の「地図」を一緒に作りましょう。
その評価・アプローチ、「なぜそこか」を説明できますか?
硬いところを緩める。弱いところを鍛える。間違いではありません。
でも、患者さんのHOPEから逆算したとき、今すべきことはそれでしょうか。
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