「畑仕事がしたい」をHOPEに変えたデイサービス支援|作業療法士の実践記録

「畑仕事がしたい」──HOPEを起点にした支援の全記録

  • 利用者のHOPE(希望)を支援の中心に置くことで、機能訓練と生活目標が一本の線でつながる
  • 作業を工程分解し、デイ内で「本物の作業文脈」に近づけることが自己効力感の回復につながる
  • 多職種・家族との目標共有が、在宅生活への橋渡しを実現する

こんにちは、作業療法士の内山です。前回のコラムでは、デイサービスにおける役割活動と身体機能アプローチの使い分けについてお話ししました。今回は、利用者さんの「HOPE(希望)」を起点に、デイサービスでの支援が実際にどう展開されるかを、具体的な事例を通してお伝えしていきます。

「畑仕事がしたい」──このひとことが、支援の出発点になった事例です。

療法士として現場に立っていると、「生活機能を維持する」という目標と、「その人がしたいことを叶える」という視点が、別のものとして扱われている場面に出会うことがあります。しかし、本来この二つは切り離せません。HOPEを中心に評価とアプローチを組み立てることで、機能訓練と生活目標が一本の線でつながるのです。

1. 事例の概要

a) 利用者情報

  • 氏名:Aさん(78歳、男性)
  • 診断名:脳梗塞後遺症(左片麻痺)、高血圧
  • 要介護度:要介護2
  • 居住形態:妻と二人暮らし(一戸建て)
  • デイサービス利用頻度:週2回

発症前は毎朝5時に起きて自宅裏の畑を耕し、育てた野菜を近所の方へ配ることが日課だった。「畑に立てなくなってから、自分が何者か分からなくなった」という言葉が印象的だった。

b) HOPE(利用者の希望・目標)

本人の言葉:「また畑に出たい。土に触りたいんです」

  • 長期目標:屋外の自宅畑で、一部の作業を見守りのもとで自立して行える
  • 短期目標:立位保持・重心移動・道具操作の安定性を高め、デイ内で農作業模擬活動を自立して行える

2. 初期評価

a) 身体機能面

  • 筋力:左上下肢 MMT 3〜3+、右側は概ね正常
  • バランス:Berg Balance Scale(BBS)38点。立位での重心移動時に左へのふらつき
  • 歩行:T字杖歩行で屋内自立。屋外・不整地は要介助
  • 上肢機能:左手は補助手として使用可。細かい道具操作は右手主体

b) 生活・環境面

  • 自宅の畑は縁側からスロープで接続可能。段差約10cm
  • 畑の土は柔らかく、立位時に足元が沈む不安定な地面
  • 妻は農作業の経験があり、「一緒にできれば」と協力的

c) 心理・参加面

  • 入所当初は「もう歳だから」「どうせできない」という発言が多い
  • 作業を通じた達成感に反応しやすい。デイでの体操より、実際の作業に意欲的
  • 近所への野菜配りという「社会的役割」が自己効力感の源泉
📌 評価のポイント
「何ができないか」だけでなく、「何がしたいか・何者であるか」を最初に把握することが、HOPEを起点にした支援設計の第一歩です。心理・参加面の評価を丁寧に行うことで、機能訓練の「文脈」が生まれます。

3. アプローチ

a) デイサービス内での役割活動

農作業の工程を分解し、デイの活動プログラムに段階的に組み込みました。

第1段階:着座での土いじり(プランター活動)

  • 粘土・土の感触を使った上肢協調運動
  • 座位での前屈み動作・道具(スコップ・ジョウロ)操作

第2段階:立位での簡易農作業(高さ調整したテーブル上のプランター)

  • 立位保持30秒以上で道具を使いながら操作する課題
  • テーブルを支持として使いながら、非利き手(左手)の補助的使用を促進

第3段階:不整地立位シミュレーション

  • バランスクッション・傾斜台を使った不安定面での立位訓練
  • 屋外での地面の不安定性を想定した動的バランス練習

b) 個別機能訓練

  • 下肢(特に左股関節・膝関節)の筋力強化訓練
  • 体幹の側方安定性訓練(農作業中のかがみ込み・振り向き動作に対応)
  • 左上肢の把持・リリース練習(種まき・苗植え動作を想定)

c) 環境調整・多職種連携

  • 作業療法士からケアマネージャーへ:自宅畑での安全な動作条件(手すり・滑り止めマット)を提案・情報共有
  • 介護士へ:デイ内でのプランター活動時の見守り・声かけ方法を申し送り
  • 妻への情報提供:「こういう工程なら一緒にできます」と段階別の家庭実施案を説明
💡 多職種連携のポイント
多職種で「Aさんの畑復帰」というゴールを共有することで、スタッフ全員が同じ方向を向いて関わることができた。療法士一人の介入だけでは生活は変わらない。目標の言語化と共有が、チーム支援の質を決める。

4. 結果と変化

a) 身体機能面の変化

  • BBS:38点 → 46点(介入から3ヶ月後の時点で確認された変化として、参考値として記録)
  • 左下肢筋力:MMT 3 → 3+〜4(同時期における評価上の変化)
  • 屋外歩行:妻の見守りで自宅周辺を歩行可能に

b) 生活・参加面の変化

  • デイでのプランター活動が「Aさんの担当コーナー」として定着。他利用者への野菜配りも再開
  • 発症から約4ヶ月後、妻同伴のもと自宅畑での作業を10分間実施。「土の感触があった。また自分に戻れた気がした」と話した
  • 発言の変化:「どうせ」「もう歳だから」が減少し、「次はトマトを植えたい」という前向きな言葉が増えた

c) 要介護区分の変化

約6ヶ月後の区分認定において、要介護2から要介護1への変更が認められた事例として記録している。要介護区分は心身状態や生活状況を総合的に評価して決定されるものであり、本事例における変化についても、デイサービスでの取り組みを含む複数の要因が複合的に影響したものと考えられる。

デイサービスの通所目的が「機能維持」から「農作業継続のための体力管理」へと本人の中で変化したことも、重要な変化の一つである。

5. この事例から学んだこと

この事例で重要だったのは、「畑仕事がしたい」というHOPEを最初から支援の中心に置き続けたことです。機能訓練をAさんに提供したのではなく、「畑仕事のための機能訓練」をAさんと一緒に作ったという感覚です。

作業療法士として、HOPEを起点にした支援設計で意識したポイントは以下の3つです。

✅ HOPEを起点にした支援設計の3つのポイント
  1. 作業の分解:「畑仕事」という大きなHOPEを工程ごとに分解し、今の能力で達成可能な段階から着手する
  2. デイの中に「本物の文脈」を持ち込む:プランター活動は単なるレクではなく、「Aさんが担当する役割」として位置づける
  3. 家族・多職種との目標共有:療法士一人の介入だけでは生活は変わらない。Aさんを取り巻く全員が同じゴールを向くことが鍵

まとめ

  • HOPEを起点に評価・アプローチを設計することで、機能訓練と生活目標が一本の線でつながる
  • 活動を工程分解し、デイ内で段階的に「本物の作業文脈」に近づけていくことが自己効力感の回復につながる
  • 多職種・家族との目標共有が、在宅生活への橋渡しを実現する
  • 「その人が何者であるか」を作業を通して取り戻すことが、生活期リハビリテーションの本質である

本コラムが、デイサービスでの利用者支援の一助となれば幸いです。ご質問やご意見がございましたら、お気軽にお寄せください。

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