こんにちは、理学療法士の内川です。
「腕橈骨筋って、肘の屈曲に関与するけど、上腕二頭筋や上腕筋との違いは何だろう？」「触診のコツは？」
理学療法士・作業療法士の皆さん、このような疑問をお持ちではありませんか？
腕橈骨筋は、肘関節の屈曲に重要な役割を果たす筋肉で、特に前腕が中間位（親指を上にした状態）の時に最も強く働きます。日常生活では、ジョッキを持つ、手提げ袋を持つ、握力を発揮するといった動作に関わっています。
さらに、腕橈骨筋は前腕の回内・回外にも関与し、手のポジションを調整するという重要な役割も担っています。
この記事では、腕橈骨筋の解剖学的特徴から、臨床で役立つ評価・訓練方法まで、PT・OT向けに詳しく解説します。
目次
１．腕橈骨筋の解剖と作用
- 起始：上腕骨外側縁（下1/3）
- 停止：橈骨茎状突起
- 支配神経：橈骨神経（C5, C6）
- 作用：
- 肘関節の屈曲（前腕中間位で最も強く作用）
- 前腕の回内（回外位から中間位へ）
- 前腕の回外（回内位から中間位へ）
腕橈骨筋は、上腕二頭筋や上腕筋とともに肘屈曲に関与しますが、それぞれの筋の特徴を理解することが臨床上重要です。
| 筋肉名 | 主な作用 | 最も強く働く前腕の肢位 |
|---|---|---|
| 上腕二頭筋 | 肘屈曲、前腕回外 | 回外位（手のひらを上に向けた状態） |
| 上腕筋 | 肘屈曲（純粋な屈曲） | 前腕の肢位に関係なく働く |
| 腕橈骨筋 | 肘屈曲、前腕の回内・回外の補助 | 中間位（親指が上を向いた状態） |
２．腕橈骨筋の評価
触診
- 被検者を座位または背臥位にします。
- 前腕を中間位にし、肘を軽く屈曲してもらいます。
- 橈骨の遠位端（橈骨茎状突起付近）から上腕方向へたどり、筋収縮を確認します。
- 肘屈曲時に、上腕二頭筋よりも橈骨側で収縮を感じ取れれば、腕橈骨筋の収縮を確認できます。
MMT（徒手筋力テスト）
段階５、４、３の手順：
- 座位で上肢を体側に置き、検者は肘を支持します。
- 抵抗無しで全可動域を動かせれば、検者のもう一方の手で手関節の近位、前腕に抵抗をかけます。
判断基準：
- ５：最大の抵抗に対して保持できる
- ４：中等度の抵抗に対して保持できる
- ３：抵抗がなければ可動域をすべて動かせる
段階2、1、0の手順：
- 座位で肩90°屈曲、内旋位をとり、検者は肘、手関節部を下から支持します。
- 肘を屈曲させます。【触知部位】腕橈骨筋：前腕の外側
判断基準：
- 2：重力が最小化されれば全可動域を動かす
- 1：側臥位で段階2と同じ肩の肢位で３つの筋どれかに収縮を触知できる
- 0：動きも収縮もない
３．腕橈骨筋へのアプローチ
- 屈曲反復運動：軽いダンベルを親指を上に向けた状態で持ち、肘を屈曲・伸展します。中間位をキープすることで腕橈骨筋の働きを最大化できます。
- 等尺性運動：壁や机に拳を押し当て、中間位での肘屈曲を維持します。
- ストレッチ：肘伸展位での手関節掌屈、回内位で気持ちいい程度に15秒伸ばします。
腕橈骨筋のストレッチ
４．筋肉の特徴
- 腕橈骨筋は橈骨神経支配であるため、橈骨神経麻痺や頚椎疾患の影響を受けやすいです。
- 前腕回内位からは回外、回外位からは回内への作用を持ちます。
- 橈側手根伸筋と腕橈骨筋は肘関節への作用が似ていますが、手関節機能の有無で区別できます（腕橈骨筋は手関節をまたがない）。
５．臨床ちょこっとメモ
- 橈骨神経麻痺の場合、上腕二頭筋・上腕筋（筋皮神経支配）の機能が残存しているために、肘屈曲機能は保たれやすいです。
- 前腕の回内外中間位で最も強く働くため、腕橈骨筋の評価やアプローチの際は中間位で行います。
- 握力低下がある場合、単なる前腕の筋力不足だけでなく、腕橈骨筋の機能低下も疑いましょう。
- 腕橈骨筋が弱化すると、肘屈曲時の力が低下し、特に中間位での物の持ち上げ（ビールジョッキや手提げバッグ等）が不安定になりやすいです。
- 腕橈骨筋の過緊張がある場合、前腕全体の緊張が高まりやすくなり、肘関節周囲の筋バランスが崩れることで疼痛や可動域制限の原因となることがあります。
- 特にデスクワークや手作業が多い方では、前腕の筋疲労が腕橈骨筋に集中しやすくなります。
６．まとめ
- 腕橈骨筋の基本的特徴と機能
- 上腕骨外側縁から橈骨茎状突起に付着
- 橈骨神経（C5, C6）の支配を受ける
- 前腕中間位での肘関節屈曲が主作用
- 前腕の回内・回外の補助作用も有する
- 上腕二頭筋・上腕筋とは異なる機能特性を持つ
- 評価・アプローチの要点
- 触診は前腕中間位で橈骨茎状突起から上行性に確認
- MMTは前腕中間位での肘関節屈曲で評価
- トレーニングは中間位での屈曲運動が基本
- 等尺性運動やストレッチも効果的
- 手関節機能の有無で橈側手根伸筋との鑑別が可能
- 臨床的特徴と注意点
- 橈骨神経麻痺の影響を受けるが、他の肘屈曲筋で代償可能
- 握力や物を持ち上げる動作に重要
- デスクワークや手作業での過負荷に注意
- 過緊張は前腕全体の筋バランスに影響
- 前腕の筋疲労が集中しやすい筋肉
今回記載したものはあくまでも筋単体のことです。実際の治療においては周囲にいくつもの筋肉が存在しており、深さも考えなければなりません。周囲に何があるかイメージできていますか？不安な方はぜひ一緒に勉強しませんか？
７．参考文献
- プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論運動器系 第3版
- 機能解剖学的触診技術 上肢
- マッスルインバランスの理学療法
- 基礎運動学 第6版補訂
- 新・徒手筋力検査法 原著第10版
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