関節モビライゼーションの実践:凸凹の法則とグレードⅡで結果を出す徒手技術|理学療法士が解説

関節モビライゼーションの実践:凸凹の法則とグレードⅡで結果を出す徒手技術|理学療法士が解説

こんにちは、理学療法士の大塚です。

前回の記事では、関節モビライゼーションが適応になるための評価についてお伝えしました。「この関節、動かすべきか?」という判断軸を持てたところで、今回はいよいよ実際の操作方法についてお話しします。

みなさんも、こんな経験はありませんか?

「教科書で凸凹の法則を覚えたのに、実際に手を当てると何を感じ取ればいいのかわからない」「グレードを上げるほど効果が出る気がして、ついグレードⅢまで引っ張ってしまう」——僕も臨床に出たての頃、そうでした。知識はあるのに、手が動かない。あるいは手は動くのに、翌日に患者さんから「昨日より痛くなった」と言われてしまう。

今日はその「なぜそうなるのか」と「どうすれば安全に、かつ確実に変化を引き出せるのか」を、運動学と神経生理学の両面から整理していきます。

この記事の結論(3行まとめ)

  • 凸凹の法則は「原則」に過ぎず、実際の臨床では動かしたときのエンドフィール(最終域の抵抗感)を手で確かめることが最優先。
  • 「まず軽い牽引で関節面の圧迫を減らし(摩擦をできるだけ減らすイメージ)、その隙間をキープしたまま滑らせる」という順序が安全操作の鉄則。
  • 臨床ではまずグレードⅡ(弾性バリアの解放)までで十分な変化を狙うことを基本戦略としたい。過度な伸張刺激は、翌日の疼痛や硬さの増悪につながる可能性がある。

前提知識:モビライゼーションのグレードⅠ・Ⅱ・Ⅲとは

本題に入る前に、この記事で繰り返し出てくる「グレード」を整理しておきましょう。カルテンボーンの分類では、関節に加える力の深さを3段階で表します。

  • グレードⅠ(ルースニング):関節面の圧迫をわずかに解除する程度の、ごく微細な牽引。組織のたるみ(スラック)は残ったままです。疼痛の緩和や、操作前に「場を整える」目的で使います。
  • グレードⅡ(タイトニング):関節の遊び(スラック)を取り切り、組織が張り始める「弾性バリア」に当たるまでの操作。本記事の主役です。
  • グレードⅢ(ストレッチング):弾性バリアを越えて、関節包・靭帯などの組織に伸張を加える操作です。

この3つを「どこまで・どう使い分けるか」が今日のテーマです。それでは始めましょう。

運動学のルールと「方向・順序」

技術を安全に展開するには、まず力学的なルールを正しく理解する必要があります。ここでは「どの方向に」「どんな順序で」力を加えるかを整理します。

凸凹の法則(Convex-concave rule)の基本と限界

関節モビライゼーションを学ぶとき、最初に教わるのが「凸凹の法則」です。簡単にまとめるとこうなります。

  • 凸の法則:凸側の関節面が動くとき、骨頭の滑りは骨の動く方向と逆方向へ起こる。
  • 凹の法則:凹側の関節面が動くとき、骨頭の滑りは骨の動く方向と同方向へ起こる。

この法則を覚えることで「どの方向に滑らせれば可動域が広がるか」を理論的に導けるようになります。たとえば肩関節の外転であれば、上腕骨頭(凸)が上に動くとき、骨頭は下方へ滑る——だから下方グライドを加えれば外転制限が改善する、という理屈です。

ただし、ここで強調したいのが「この法則には限界がある」ということです。

⚠️ 臨床のリアル:法則が通用しないケースがある

すべての関節が教科書に描かれているような綺麗な球体ではありません。また、関節周囲の軟部組織(関節包・靭帯・筋膜)のタイトネスが強い場合、そのテンションが法則を凌駕し、法則どおりの方向では動きが出ないことがあります。

だからこそ、教科書の法則を暗記することよりも、実際に動かしたときのエンドフィール(最終域の抵抗感)を手で感じ取ることの方が臨床では重要です。法則はあくまで「仮説を立てるための出発点」。最終的な答えは、患者さんの身体が教えてくれます。

治療平面(Treatment Plane)と正しい操作の順序

次に押さえてほしいのが「治療平面」の概念です。

治療平面とは、凹側の関節面に接する平面のことです。この平面を基準にして操作の種類が決まります。

  • 治療平面に対して垂直方向に力を加えると「牽引(ディストラクション)」になります。
  • 治療平面に対して平行方向に力を加えると「滑り(グライド)」になります。

そして、ここが最も重要な「鉄則」です。

✅ 鉄則:いきなり滑らせてはいけない

関節面同士が圧迫した状態(骨頭が関節窩に押しつけられている状態)のまま滑り操作を加えると、軟骨や関節内組織へ不要な負荷をかけるリスクがあります。

正しい操作の順序:

  1. まずグレードⅠのごく微細な牽引で、関節面の圧迫を減らす(摩擦をできるだけ減らすイメージ)。
  2. その「隙間」をキープしたまま、目的方向へグライドを加える。

「牽引で場を整え、グライドで動きを引き出す」——この2ステップを省略しないことが、安全な操作の絶対条件です。

愛護的アプローチ 〜グレードⅡを基本とする考え方〜

「もっと強く引っ張れば、もっと動くはずだ」——これは、臨床に出て間もない頃に多くの療法士が考えてしまうことです。でも、この考え方が翌日の患者さんを苦しめる原因になります。

ここでは「なぜグレードⅡで十分なのか」と「グレードⅢ以上のリスク」を、メカニズムから理解していきましょう。

「グレードⅡ(張らせる・遊びを取る)」で十分に変わる理由

グレードⅡとは、関節の「遊び(スラック)」を取り切り、組織を張らせるところまでの操作です。組織に抵抗が出始めた「弾性バリア」に到達したら、そこで止まる。これがグレードⅡです。

「そんな優しい刺激で本当に変わるの?」と思うかもしれません。でも、変わるんです。その理由は2つあります。

①神経生理学的メカニズム

グレードⅡの優しい刺激が関節周囲の機械受容器(メカノレセプター)を刺激します。この刺激が脊髄・脳幹レベルでの抑制系を活性化させ、脳からの「警戒信号(防御性収縮・スパズム)」がフッと解除される——少なくとも効果の一部は、こうした神経生理学的機序によると考えられています。

過去記事でも触れた「ゲートコントロール理論」と同じ仕組みです。痛いところをさすると楽になる、あれと同じようなことが関節内でも起きていると考えられています。「力で押し広げる」のではなく、「神経系に安全を伝えて筋が緩むのを待つ」——これがモビライゼーションの本質です。

②バイオメカニクス的メカニズム

長期間の不動や痛みによる回避動作で、骨頭と関節窩のわずかな位置関係や、関節包のテンション分布が“ずれた状態”で固定されてしまうことがあります。グレードⅡの操作でこの関節内の適合性やjoint play(関節の遊び)が改善するだけでも、動きが戻ることがあります。

「大きく動かさなくてもいい」のはこのためです。「骨がズレている」のを戻すというより、「関節周囲の状態が変わる」と捉える方が現代的です。関節の適合性がわずかに変わるだけで、可動域と痛みが大きく変わることがあります。

「グレードⅢ(伸張)」のリスクと使い分け

では、グレードⅢ以上——つまり弾性バリアを超えて組織を伸張することはどうでしょうか。

🚨 グレードⅢのリスク:翌日の「揺り戻し」

防御性収縮が十分に解除されていない状態で強い伸張刺激を加えると、靭帯・関節包・筋膜に過度なストレスがかかり、炎症や痛みの増悪につながる可能性があります。

その結果として、翌日以降に可動域や筋緊張が一時的に悪化する、いわゆる「揺り戻し」のような反応が起こることも臨床的に経験されます。だからこそ、まずはグレードⅡまでで十分な変化を引き出せるかを試す、という戦略が安全です。

また、グレードⅢ以上の扱いについては、教育体系による考え方の違いを知っておくと判断の軸になります。

📖 教育体系による考え方の違い

一部の徒手医学の教育体系では、組織に大きな伸張ストレスを与えうる操作(いわゆるグレードⅢ以上)を慎重に扱うべきとされ、療法士はまずグレードⅡまでで十分な変化を引き出すことを基本とする、という考え方が強調されています。

「もっとやれば良くなる」ではなく、「まずグレードⅡまでで最大限の変化を引き出す」という姿勢は、安全性と再現性の両面で、現代的な臨床家にとって重要な視点です。

カルテンボーン基準の具体的プロトコル

では、グレードⅡの操作を実際にどのくらいの時間・回数で行えばいいのでしょうか。ここではカルテンボーン基準を参考にしたプロトコルをお伝えします。

  • 保持時間:1セットあたり30秒間の持続保持(キープ)
  • セット数:2〜3セット

なぜ30秒なのか。これは組織バイオメカニクスの知見を臨床に応用したものです。

コラーゲン線維を主体とする関節包・靭帯・筋膜などの組織は、持続的な力が加わると「クリープ現象」(時間の経過とともに変形が進む現象)と「応力緩和」(一定の変形を保つために必要な力が徐々に小さくなる現象)を起こすとされています。組織バイオメカニクスの研究では、こうした変化に20〜30秒程度の持続負荷が必要と考えられており、それを臨床に応用したのがこのプロトコルです。「ちょっと触れてすぐ離す」では、この変化が起こりにくいのです。

⚠️ 引き際の判断:2つのサイン

手技中は、常に「引き際」を見極めることが必要です。以下のどちらかが起きたら、すぐに中止して再評価に移ってください。

  • 手技中に痛みが強くなる場合
  • 2〜3セット行っても変化が全くない場合

逆に、手技中に「少しでも動きが出てきた・痛みが変化した」という改善のサインが出た場合は、深追いせず即終了してください。「もう1セットやれば、もっと良くなるかも」という誘惑に負けると、翌日の疼痛や硬さの増悪につながりかねません。変化が出た時点で止める。これが愛護的アプローチの基本です。

介入後に必ずチェックしたい3つのポイント

手技の効果判定は「なんとなく動きやすそう」では不十分です。介入の直後に、最低限この3つを確認しましょう。

  • 自動ROM:制限角度がどう変わったか。そのときの痛みの質・強さはどうか。
  • 動作中の痛みの出方:ペインフルアークなど、痛みの開始角度・解除角度が変わったか。
  • 患者さんの主観的変化:「重さが軽くなった」「詰まり感が減った」などの言葉の変化。

そして次回(翌日〜数日後)には、夜間痛や朝のこわばり、着替え・階段などの日常動作の変化も必ず確認しましょう。「その場の変化」と「翌日の反応」、この2つをセットで見て初めて、効いたかどうかを判断できます。

小さな注意点:こんなモビライゼーションは避けたい

あわせて、臨床で「あるある」な避けたいパターンを3つだけ挙げておきます。

  • エンドフィールが不明確なまま、とりあえず大きく揺らす
  • 痛みが増えているのに、グレードや時間を「足して」しまう
  • その場で変化が出なかったのに、同じ操作を何セットも繰り返す

どれも「何かをしてあげたい」という気持ちから起こりがちです。迷ったら、足すのではなく評価に立ち返る。それが結局いちばんの近道です。

グレードⅡを基本とした意思決定

迷ったときのシンプルな判断の流れ

ここまでの内容を、臨床で迷ったときにそのまま使える順番に整理します。

  1. エンドフィールを確認する——硬いのか、痛いのか、スパズムなのか。
  2. 痛みの反応性を確認する——安静時痛・夜間痛が強い場合は、強いモビライゼーションは控える。
  3. グレードⅠ→Ⅱで試験的に介入し、その場でROMと痛みの変化を見る。
  4. 変化がある→その日はそこで終了し、翌日の反応を確認する。
  5. 変化がない→その日は深追いせず、ストレッチやエクササイズなど別のアプローチを検討する。

この順番で考える癖をつけておくと、関節ごとの各論に進んだときにも迷いません。

次回は、肩関節・膝関節など具体的な関節ごとのモビライゼーション手順を、今回の“グレードⅡを基本とした判断フロー”に沿って解説していきます。

まとめ

今回お伝えした内容を3つにまとめます。

  1. 凸凹の法則は仮説の出発点に過ぎない。軟部組織のタイトネスが法則を凌駕するケースがあるため、最終的には動かしたときのエンドフィールを手で確かめることが臨床の核心。
  2. 牽引で場を整えてからグライドへ。関節面の圧迫を残したまま滑り操作を加えると、軟骨や関節内組織へ不要な負荷をかけるリスクがある。「軽い牽引で隙間をつくり、キープしたまま滑らせる」という順序を省略しない。
  3. まずはグレードⅡで十分な変化を引き出せるかを試す。グレードⅢ以上は組織へのストレスも大きくなりやすいため、少なくとも日常臨床では慎重に扱い、まずグレードⅡで最大限の変化を引き出すのが安全。

「優しく触れるのに、ちゃんと変わる」——これがモビライゼーションの醍醐味です。力で身体をねじ伏せようとするのではなく、神経系と組織の生物学的な反応を信頼して、丁寧に待つ。その感覚を手に入れた時、あなたの臨床は一段階変わるはずです。

患者さんへの説明にもひと工夫を。「いきなり強く伸ばすのではなく、関節の中の動きや神経の反応を少しずつ整えていく手技です」と伝えると理解されやすくなります。「グイグイ伸ばす」ではなく「動きやすい状態にリセットするイメージです」と言葉を選ぶことで、患者さんの不安や恐怖も減らせます。

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