変形性膝関節症の膝伸展筋力低下、筋トレだけで本当に十分か?

この記事の結論(3行まとめ)

  • 変形性膝関節症における膝伸展筋力低下は、筋そのものの問題だけでなく、関節原性筋抑制・疼痛・可動域制限・心理的回避など多因子が絡み合っている
  • 膝関節のみを見るのではなく、股関節・足関節・体幹・動作全体を含めた多角的な評価が不可欠である
  • 筋力トレーニングを効果的に行うためには、まず「筋が働ける環境」を整えることが先に必要な場合がある

こんにちは、理学療法士の赤羽です。
中高年以降の膝痛において、臨床で遭遇することが多い疾患の一つに変形性膝関節症があります。

変形性膝関節症、いわゆる膝OAのリハビリテーションでは、「大腿四頭筋の筋力低下」が問題点として挙がることが多いです。
実際、膝伸展筋力低下は、膝OAの発症・進行に関連する可能性がある因子の一つとして報告されています。ただし、前提として膝OAは多因子性の病態であり、筋力低下だけで説明できるものではありません。

膝OAでは、肥満、年齢、性別、外傷歴といった因子だけでなく、内外反アライメント、歩行時スラスト、可動域制限、半月板変性、そして膝伸展筋力低下などのメカニカルファクターが関与するとされています。

これらのことから、膝OAのリハビリにおいて膝伸展筋力を高めることは重要な介入の一つです。

しかし、ここで一つ注意が必要です。
筋力低下があるからといって、単純に筋力トレーニングだけを行えばよいのでしょうか。
もちろん筋力トレーニングは大切です。ただし臨床では、その前に「そもそもその筋肉が力を発揮できる状態にあるのか」を考えることも重要となります。

筋力は「筋肉そのもの」だけで決まらない

膝伸展筋力は、大腿四頭筋の筋量や筋力だけで決まるわけではありません。

たとえば、膝に水腫がある場合、大腿四頭筋に力を入れようとしても十分に収縮できないことがあります。これは関節原性筋抑制と呼ばれる現象で、関節内の水腫や疼痛、炎症による求心性入力の変化が、脊髄レベルや中枢神経系の運動出力に影響すると考えられています。

つまり、「筋肉が弱い」のではなく、「筋肉に力を入れにくい神経筋状態」になっている可能性があります。

また、疼痛が強い場合も同様です。痛みがある状態で膝を伸ばそうとすると、身体は無意識にその動きを避けようとします。結果として、膝伸展を使わない立ち方や歩き方が定着し、さらに膝伸展筋を使う機会が減っていきます。

このように考えると、膝伸展筋力低下に対しては、筋力トレーニングだけでなく、疼痛・水腫・可動域・運動制御・動作戦略まで含めて評価する必要があります。

膝が伸びないと、膝伸展筋は使いにくい

膝伸展筋力を発揮するためには、膝関節が伸展できることも重要です。

膝伸展可動域が不足していると、立位や歩行で膝の伸展ができません。すると、常に軽度屈曲位で荷重することになり、大腿四頭筋には持続的な負担がかかりやすくなります。

さらに、膝屈曲位での立位や歩行が続くと、患者さんはその姿勢に慣れてしまいます。すると、膝を伸ばすこと自体に違和感や不安を感じたり、膝伸展位で荷重する経験が減ったりします。
その結果、膝伸展可動域はある程度残っていても、実際の動作では膝伸展を使えないという状態が起こります。

ここで重要なのは、可動域と筋力を分けて評価することです。

  • 他動的に膝が伸びない → 関節・筋・軟部組織の可動性の問題を考える
  • 他動的には伸びるのに、自動運動や荷重動作で伸ばせない → 筋出力・疼痛・恐怖回避・運動制御の問題を考える

見るべきポイントは膝だけではない

膝伸展を使えるかどうかは、膝関節だけで決まりません。

股関節が伸展しにくい場合、立位や歩行で股関節を後方へ運びにくくなります。その代償として、体幹前傾や骨盤前傾、膝屈曲位での姿勢が生じることがあります。

また、股関節外転筋の機能低下があると、片脚支持時に骨盤や大腿のコントロールが不十分となり、膝関節への内側負荷や動的アライメントに影響する可能性があります。

足関節も重要です。足関節の可動域や足部の支持性が不足していると、立ち上がり、階段、歩行時に膝の位置を適切に制御しにくくなります。結果として、膝伸展筋が働くべき場面でうまく働けなかったり、反対に過剰な防御的筋活動が起きたりすることがあります。

膝OAにおける膝伸展筋力低下を見るときには、膝だけでなく、股関節・足関節・体幹・動作全体の中で評価するという視点が必要です。

筋力トレーニングを効果的に行うために確認したいこと

膝伸展筋力低下を認めたとき、まず確認したいのは以下です。

  • 膝伸展可動域はあるか
  • 他動では伸びるが、自動で伸ばせないのか
  • extension lag はあるか
  • 膝に水腫や熱感はないか
  • 疼痛により膝伸展を避けていないか
  • 立位・歩行で膝伸展を使えているか
  • 股関節・足関節・体幹の影響はないか
  • 患者本人が膝を伸ばすことに不安や恐怖を持っていないか
これらを確認せずに筋力トレーニングだけを行うと、患者さんは「頑張っているのにうまく力が入らない」という状態になりやすくなります。
筋力トレーニングを効果的に行うためには、筋が働ける環境を整えることが先に必要な場合があります。

臨床ではどう考えるか

膝伸展筋力低下を見たときには、まず次のように整理すると臨床で扱いやすくなります。

① 筋そのものの問題

筋萎縮、筋力低下、筋持久力低下、瞬発的な筋出力の低下などです。この場合は、等尺性収縮などを用いた筋力トレーニング、荷重下運動、立ち上がり、ステップ動作などを使い、段階的に負荷を上げていきます。

② 筋が働けない環境の問題

疼痛、水腫、炎症、関節原性筋抑制、可動域制限などです。この場合は、疼痛や水腫の管理、可動域改善、低負荷での筋収縮練習、荷重量調整などが必要です。

③ 動作の中で使えない問題

膝伸展筋力はある程度あるが、歩行、階段、立ち上がりで使えない状態です。この場合は、筋トレ単独ではなく、目的動作の中で膝伸展をどう使うかを練習する必要があります。

④ 心理・認知的な問題

「膝を伸ばすと痛そう」「体重をかけるのが怖い」「また悪くなりそう」という認知があると、膝伸展位での荷重を避けることがあります。この場合は、患者教育、段階的曝露、成功体験の設定が重要です。

まとめ

膝OAにおいて、膝伸展筋力低下は重要な問題です。
しかし、筋力低下を見たときに、すぐに「筋トレを増やそう」と考えるだけでは不十分です。

大切なのは、その筋肉が力を発揮できる状態にあるのかを評価することです。

膝伸展可動域、水腫、疼痛、関節原性筋抑制、股関節・足関節・体幹の影響、そして患者さんの動作戦略や不安まで含めて考えることで、膝伸展筋力トレーニングは膝伸展筋力を日常動作の中で活かしやすくなります。膝伸展筋力は「鍛える」だけではなく、使える状態に整えることが大切です。

本記事が、日々の臨床の一助となれば幸いです。

参考文献

  1. 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会・変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会,『変形性膝関節症診療ガイドライン2023』,南江堂,2023
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