利用者の可能性を最大限に引き出す! ストレングスモデルに基づくデイのプログラム開発とは?

【PTOT向け】利用者の可能性を最大限に引き出す! ストレングスモデルに基づくデイサービスのプログラム開発とは?

皆さんこんにちは。作業療法士の内山です。今回は「利用者の強みを活かしたプログラム開発」に焦点を当てて、ストレングスモデルに基づくデイサービスの可能性について考えていきたいと思います。

「Aさんは何が出来ないのか」「Bさんにはどんな障害があるのか」――私たちは利用者さんと関わる中で、ついつい「できないこと」や「問題点」に目を向けがちです。確かに、それらを把握することは適切な支援のために重要ですが、それだけでは利用者さんの可能性を狭めてしまうかもしれません。

ある日のことです。私が担当するデイサービスに、新しく佐藤さん(仮名)が利用を始めました。脳梗塞の後遺症で左半身に麻痺があり、歩行は杖を使用。「何もできなくなってしまった」と、沈んだ表情で過ごす日々が続いていました。ある時、レクリエーションの時間に偶然、彼が若い頃から趣味にしていた水墨画の話題になりました。その瞬間、佐藤さんの目が輝いたのです。「実は、私も昔は…」と、少し躊躇いながらも話し始めた佐藤さん。次の週には、彼のために水墨画の道具を用意しました。右手だけでも描けるよう環境を整えると、最初は戸惑いながらも、少しずつ筆を動かし始めました。

1ヶ月後、佐藤さんは自ら「みんなに教えたい」と言い出したのです。そして今では、月に一度の「佐藤先生の水墨画教室」が開かれるようになりました。歩行訓練にも前向きに取り組むようになり、「次の展示会に出品するために、もっと歩けるようになりたい」と意欲を見せています。

このエピソードから、私は「強み」に注目することの重要性を改めて感じました。今回は、この「ストレングスモデル」に基づいたデイサービスのプログラム開発について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

ストレングスモデルとは何か

まず、ストレングスモデルの基本的な考え方について確認しておきましょう。

  • 従来のモデルとの違い
    従来の「医学モデル」や「問題解決モデル」では、利用者の「弱み」「問題点」「できないこと」に焦点を当て、それらを改善・克服することを目指します。一方、ストレングスモデルでは、利用者の「強み」「資源」「可能性」に焦点を当て、それらを活かして生活の質を高めることを目指します。
  • ストレングスの定義
    ストレングス(強み)とは、個人が持つ能力や技術、知識、経験、関心、意欲など、その人ならではの特性や資源のことを指します。これには、潜在的な可能性や成長の余地も含まれます。また、個人の内面だけでなく、家族や友人、地域社会などの外部資源も含まれます。
  • ストレングスモデルの原則
    • 全ての人には強みや可能性がある
    • 困難や障害があっても成長する能力がある
    • 人は自分の目標や願望に従って選択する権利がある
    • 専門家はあくまでも協働者であり、指導者ではない
    • 環境や地域社会も重要な資源である
  • ストレングスモデルの効果
    • 自己効力感や自己肯定感の向上
    • 主体性や意欲の向上
    • 社会参加の促進
    • 生活の質(QOL)の向上
    • 新たな可能性や選択肢の発見

デイサービスにおけるストレングスアセスメント

ストレングスモデルに基づくプログラム開発の第一歩は、利用者さんの強みを見つけ出す「ストレングスアセスメント」です。その具体的な方法について考えてみましょう。

  • 多角的な情報収集
    • 利用者本人からのヒアリング:好きなこと、得意なこと、これまでの経験など
    • 家族や友人からの情報:本人が気づいていない強みや才能など
    • 観察:活動中の表情や反応、他者との関わり方など
    • 記録や資料:趣味や特技、過去の職業に関する情報など
  • ストレングスの種類と探し方
    • 個人的ストレングス:性格特性、価値観、知識、能力、スキルなど
      例:几帳面さ、忍耐強さ、ユーモアのセンス、手先の器用さなど
    • 環境的ストレングス:家族関係、友人関係、地域とのつながりなど
      例:支えてくれる家族の存在、近所の理解者、馴染みの店など
    • 経験的ストレングス:これまでの人生経験、乗り越えてきた困難など
      例:職業経験、子育て経験、趣味の経験、難病との闘病経験など
  • ストレングスを引き出す質問例
    • 「どんなことをしているときが一番楽しいですか?」
    • 「これまでの人生で、どんなことに誇りを感じますか?」
    • 「困ったときに、どのように乗り越えてきましたか?」
    • 「若い人に伝えたい知恵や技術はありますか?」
    • 「友人や家族からは、どんなところを評価されていると思いますか?」
  • 観察のポイント
    • どんな話題で表情が明るくなるか
    • どんな活動に積極的に参加するか
    • 他の利用者との関わりで発揮される能力
    • 日常の何気ない会話から見えてくる経験や知識
  • アセスメント結果の整理と共有
    • 発見したストレングスを明確に記録する
    • 本人と一緒に振り返り、確認する
    • チーム内で共有し、多角的な視点を加える
    • ケアプランに反映させる

強みを活かしたプログラム開発の実際

ストレングスアセスメントで見出した強みを、どのようにプログラム開発に活かすか、具体的な方法を考えてみましょう。

  • 個別プログラムの開発
    • 趣味や特技を活かしたプログラム
      例:元料理人→料理教室の講師役、元教師→勉強会の開催
    • 過去の経験を活かしたプログラム
      例:園芸経験者→施設の花壇管理、手芸経験者→小物作り指導
    • 性格や価値観を活かしたプログラム
      例:世話好きな方→新規利用者のサポート役、几帳面な方→整理整頓の担当
  • グループプログラムの開発
    • 異なる強みを持つ利用者同士の相互作用を促すプログラム
      例:教える役割と学ぶ役割の組み合わせ、得意分野の異なる方々の協働作業
    • 共通の強みや関心を持つ利用者のグループ活動
      例:同じ趣味を持つ方々のサークル活動、同じ地域出身者の思い出語り
    • 強みを地域に還元するプログラム
      例:手作り品を地域のバザーに出品、子どもたちへの昔遊び指導
  • 役割を創出するプログラム
    • 施設内での役割の創出
      例:受付係、お茶出し係、連絡係、環境整備係など
    • 行事やイベントでの役割の創出
      例:企画委員、司会者、記録係、装飾担当など
    • 相互サポートの役割の創出
      例:新人歓迎係、話し相手係、励まし係など

事例から学ぶ成功のポイント

ここでは、実際にストレングスモデルに基づいたプログラム開発を行った事例を紹介し、その成功のポイントを考えてみましょう。

【事例1:「農業の知恵袋」プロジェクト】

Cさん(85歳男性、パーキンソン病)は、長年農業に従事してきた方でした。身体機能の低下により、畑仕事は困難になっていましたが、農業に関する豊富な知識と経験は健在でした。アセスメントの中で、「若い人に農業の知恵を伝えたい」という思いが強いことが分かりました。

そこで、施設の一角に小さな畑スペースを設け、「農業の知恵袋」プロジェクトを始めました。Cさんが指導役となり、他の利用者や地域のボランティアと一緒に野菜を育てます。車椅子でも作業がしやすいよう高床式の栽培スペースも設置しました。

このプロジェクトは大成功を収め、Cさんは生き生きと農業指導を行うようになりました。パーキンソン病の症状も一時的に緩和され、発語も明瞭になるという副次的効果も見られました。収穫した野菜は施設の食事に活用され、「Cさんの野菜は特別においしい」と評判になっています。

【成功のポイント】

  • 長年培った専門知識を尊重し、「教える立場」という役割を創出した
  • 身体機能に合わせた環境調整を行い、参加しやすくした
  • 他の利用者や地域との交流の機会を組み込んだ
  • 成果(収穫した野菜)が目に見える形で評価された

【事例2:「思い出の歌」合唱団】

Dさん(78歳女性、脳梗塞後遺症、軽度認知症)は、若い頃から合唱団に所属していた経験がありました。言語障害により会話は困難でしたが、歌を歌うときは比較的流暢に歌えることが分かりました。また、昔の歌の歌詞をよく覚えており、メロディーも正確に記憶していました。

この強みを活かし、「思い出の歌」合唱団を結成しました。Dさんが選曲や指導を担当し、週に一度、皆で童謡や唱歌、懐メロを歌う時間を設けました。Dさんは歌詞を書いた大きなボードを準備し、メロディーを先導する役割を担いました。

この活動により、Dさんの表情が明るくなり、言語機能にも改善が見られるようになりました。さらに、地域の子どもたちとの交流会に発展し、世代間交流の機会も生まれています。認知症の進行も緩やかになり、歌に関する記憶は特によく保たれています。

【成功のポイント】

  • 障害があっても発揮できる能力(歌唱能力)に注目した
  • リーダーとしての役割を与え、自己効力感を高めた
  • 馴染みのある歌という「心の資源」を活用した
  • 他の利用者との協働作業を通じた社会性の維持
  • 世代間交流という新たな価値の創出

ストレングスモデル実践のためのチームアプローチ

ストレングスモデルを効果的に実践するためには、チーム全体での取り組みが欠かせません。以下のようなアプローチが考えられます。

  • 職員の意識改革
    • 「問題点」ではなく「強み」に注目する視点の共有
    • 利用者を「支援される人」ではなく「協働者」として捉える意識の醸成
    • 「何ができないか」ではなく「何ができるか、何がしたいか」を重視する姿勢の定着
  • チーム内の情報共有の工夫
    • ケースカンファレンスでストレングスに関する情報を積極的に共有する
    • 「ストレングスノート」などの記録ツールを活用する
    • 利用者の強みを可視化する掲示物やマップを作成する
  • 環境づくりの重要性
    • 強みを発揮しやすい物理的環境の整備
    • 役割や貢献を認め合う文化の醸成
    • 挑戦や失敗を受け入れる安心安全な場の提供
  • 家族や地域との連携
    • 家族からの情報収集と共有
    • 地域資源(人材、場所、機会など)の活用
    • 強みを社会に還元するための橋渡し

実践上の課題と対応策

ストレングスモデルを実践する上での課題と、その対応策についても考えておきましょう。

  • 「強み」が見つけにくい場合
    【課題】重度の認知症や重度の身体障害がある方の場合、「強み」を見つけることが難しいと感じることがあります。
    【対応策】

    • より細かな観察(表情の変化、小さな反応など)を心がける
    • 過去の生活歴や家族からの情報を丁寧に収集する
    • 身体的能力だけでなく、「穏やかさ」「笑顔」「人を和ませる雰囲気」なども強みとして捉える
  • 強みを活かす機会の不足
    【課題】施設のスケジュールや人員配置の制約から、個別の強みを活かす機会を十分に提供できないことがあります。
    【対応策】

    • 日常のケアの中に小さな役割や選択の機会を組み込む
    • グループ活動の中でも個別の強みが発揮できる工夫をする
    • ボランティアや実習生などの協力を得て、マンパワーを確保する
  • 成果の評価の難しさ
    【課題】ストレングスモデルの効果を客観的に評価することが難しい場合があります。
    【対応策】

    • 数値化できる指標(参加頻度、発言回数など)と質的指標(表情、意欲など)を組み合わせる
    • 定期的な振り返りの機会を設け、利用者自身の主観的評価も重視する
    • 小さな変化や成功体験を記録し、積み重ねていく
  • スタッフ間の意識の差
    【課題】従来の支援モデルに慣れているスタッフにとって、視点の転換が難しい場合があります。
    【対応策】

    • 成功事例の共有を通じた意識啓発
    • 研修や勉強会の実施
    • 「強み探し」のワークショップなど、実践的な学習機会の提供

まとめ

  • ストレングスモデルに基づくデイサービスは、利用者一人ひとりの「強み」「資源」「可能性」に焦点を当て、それらを活かしたプログラム開発を行うことで、自己効力感の向上や生活の質の改善につながる可能性がある。
  • 利用者の強みを見出すためには、多角的な情報収集と丁寧な観察が必要であり、発見した強みを個別プログラムやグループ活動、役割創出などの形で活かしていくことが重要である。
  • ストレングスモデルを実践する上では、職員の意識改革やチーム内の情報共有、家族や地域との連携が欠かせず、「できないこと」ではなく「できること、したいこと」に焦点を当てる文化を育んでいくことが求められる。

私たちは、ともすれば利用者さんの「できないこと」に注目しがちです。しかし、一人ひとりの中に眠る「強み」に目を向け、それを引き出す支援を行うことで、利用者さんの生活はより豊かなものになる可能性を秘めています。冒頭で紹介した佐藤さんのように、強みを活かす機会を得ることで、人は生き生きとした表情を取り戻し、新たな一歩を踏み出すことができるのです。

あなたのデイサービスでも、明日から利用者さんの「強み探し」を始めてみませんか?思いがけない可能性の扉が開かれるかもしれません。


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