理学療法士の赤羽です。
「痛みを軽減することが第一目標ではない」
慢性疼痛診療ガイドラインにこう示されているのをご存知でしょうか?
もちろん痛みのコントロールは重要ですが、私たち理学療法士・作業療法士の本当の役割は、患者さんのQOL(生活の質)やADL(日常生活活動)を向上させることです。
しかし、日々の臨床で「痛みの評価はするけれど、どうやってADLやQOLに繋げればいいんだろう…」と悩むことはありませんか?
今回は、評価バッテリーを使うだけではない、患者さんの希望(HOPE)を起点に身体機能と生活を結びつけ、明日からの臨床を変える具体的な思考プロセスを5つのステップで解説します。
慢性疼痛リハビリの目標は「生活の質の向上」
改めて、慢性疼痛診療ガイドラインでは以下のように示されています。
「痛みの軽減は慢性疼痛治療の最終目標の1つではあるが、第一目標ではない。医療者は痛みの管理を行いながら、QOLやADLを向上させることを治療の目標とすべきである。」
つまり、私たちのリハビリテーションは「痛みを0にすること」だけがゴールではありません。
「痛みがあっても、その人らしい生活を送れるように支援すること」が、より本質的な目標と言えるでしょう。
では、そのために最も重要な「患者さんの本当の望み」をどう引き出せば良いのでしょうか。
ADL・QOLと身体機能をつなぐ鍵は「HOPE」
そこで私が最も大切にしているのが、患者さん(ときにはご家族)の「HOPE(希望)」です。
多くの方は「今の生活に不便や不満があるからリハビリが必要」と感じています。つまり「現状に満足していない」からこそ、リハビリへのHOPEが生まれるのです。
なぜ「HOPE」を深掘りする必要があるのか?
患者さんの訴えは「腰の痛みを減らしたい」といった、痛みにフォーカスしたものが多いです。
しかし、その言葉の背景を丁寧にカウンセリングしていくと、
- 「好きな散歩を、痛みを気にせず続けたい」
- 「かがむ時の痛みがなくなって、また孫と気兼ねなく遊びたい」
- 「ゴルフ仲間とのラウンドに復帰したい」
といった、具体的な活動や参加への本当の望みが見えてきます。
このHOPEこそが、ADLやQOLそのもの。これを引き出すことで、リハビリの本当のゴールが明確になります。
HOPEと身体機能を結びつける5つのステップ
患者さんから引き出したHOPEを、具体的な理学療法・作業療法に落とし込むためには、次の5つのステップで思考を整理するのがおすすめです。
この思考プロセスを経ることで、「HOPE ⇔ 活動 ⇔ 身体機能」が一本の線でつながり、介入すべきポイントが明確になります。
【仮想症例】「ゴルフがしたい」を叶える臨床思考プロセス
実際の臨床場面をイメージしてみましょう。
- 対象者:70代男性
- HOPE:「またゴルフができるようになりたい」
このHOPEを、先ほどの5ステップに沿って考えていきます。
Step1:活動の分解
ゴルフに関わる一連の流れを分解します。
(例:着替え → 車の運転 → ゴルフ場での歩行 → スイング → 入浴 → 帰宅)
Step2:エラーの特定
問診と動作分析の結果、プレー中のスイング、特にフィニッシュの際に腰痛が出現することが判明しました。
Step3:必要機能の列挙
ゴルフスイングに必要な関節運動を列挙します。
(例:頭頚部、体幹、肩甲帯、上下肢など、多関節の分離と協調運動)
Step4:評価と原因分析
身体機能評価の結果、胸椎の回旋可動域(ROM)が著しく低下していることが分かりました。これにより、体幹の回旋を腰椎の過剰な動きで代償しており、負担が集中して疼痛が再現されました。
Step5:介入と再評価
胸椎の可動性を改善するため、モビライゼーションを実施。結果、胸椎回旋ROMが改善し、腰部の負担が軽減。疼痛なくスイングが可能になりました。
このように、「ゴルフがしたい」という漠然としたHOPEが、「胸椎回旋ROMの改善」という明確な介入ポイントに繋がったのです。
まとめ:明日から使える慢性疼痛アプローチのポイント
今回の内容をまとめます。
- 慢性疼痛リハビリの第一目標は、痛みの除去だけでなくADL・QOLの向上である。
- そのためには、表面的な「痛みの訴え」の奥にある患者さんの真の「HOPE」を深掘りすることが重要。
- 「HOPE→活動→身体機能」と分解・評価することで、介入点が明確になり、生活の質の改善という結果に繋がる。
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