「評価から介入まで、いつも時間がかかりすぎる…」
「仮説検証がうまく回らず、効果的なアプローチが分からない…」
臨床現場で、こんな悩みを抱えていませんか?
この記事では、多忙な理学療法士・作業療法士の皆さんが、1セッション(約20–40分)で「評価→介入→再評価」のサイクルを確実に完結させるための、再現性の高い「思考の地図」と「手順のテンプレート」を共有します。
記事の最後には、臨床でそのまま使えるA4サイズの「評価の順番テンプレ」を無料でダウンロードできます。ぜひ、明日からの臨床にお役立てください。
この記事でわかること
この記事のゴール:評価で迷わない「思考の地図」を手に入れる
- ✅ 評価→介入→再評価を1セッション(約20–40分)で完結させるための思考プロセスを共有します。
- ✅ 観察→動作分析→触診→スクリーニングの「順番」と「当て所」を言語化し、誰でも再現可能な手順に落とし込みます。
- ✅ 評価の流れテンプレートを使えば、明日から思考の迷いがなくなります。
※本連載は、ブルンストローム法などの神経回復アプローチに敬意を払いつつ、まずは多くの症例に応用できる運動学(キネシオロジー)を中心に解説します。神経回復段階の考慮が必要なケースは、連載後半で統合的に扱います。
20分で結果を出す「臨床意思決定の流れ」
臨床の思考は、この8ステップで流れます。この「流れ」を頭に入れておくだけで、思考の迷子を防げます。
- セーフティチェック(Red Flagsの確認)
- 観察(姿勢・皮膚・呼吸・荷重)
- 動作分析(歩行・階段・リーチなど、主訴に直結するタスク)
- 触診(骨→関節→筋→皮膚/筋膜)
- スクリーニング(関節包内/筋機能/神経の3点)
- 仮説→検証(原因の”寄与率”で優先順位を決定)
- 介入(環境調整→キューイング→エクササイズの順で)
- 再評価(同一タスク・同一指標で即時に確認)
重要ポイント「関節包内→骨運動→動作」の順で評価・介入の仮説を立てると、アプローチの効果が格段に安定します。
【保存版】評価の流れテンプレート
ここからは、臨床意思決定マップを具体的なチェックリスト形式で解説します。PDF版は記事の最後でダウンロードできます。
0. セーフティチェック(Red Flags)
何よりも先に、重篤な状態を見逃さないための確認を行います。
- 安静時痛、夜間痛、急速な腫脹・発赤、広範囲の感覚障害
- 持続する発熱、原因不明の体重減少
- 外傷歴があり骨折が疑われる、急性の神経症状(麻痺、呂律困難など)
➡️ 一つでも該当すれば、直ちに医師への報告・医療連携を最優先します。
1. 観察(立位・座位・皮膚・呼吸)
「見る」だけで、仮説の8割は立てられます。
- 姿勢の3ポイント:頭頸部・胸郭/骨盤・足部のアライメントと荷重の左右差は?
- 皮膚の状態:緊張、瘢痕、浮腫、色調の変化はないか?
- 呼吸の様式:胸郭の腹側だけでなく、背側は拡張しているか?
➡️ 仮説:どの関節(脊柱・股関節・肩甲帯・足部)からアプローチすべきか、当たりをつけます。
2. 動作分析(タスク特異)
患者さんの主訴(ADL)に直結する動作を分析します。
- 代表タスク:歩行、階段昇降、立ち上がり、スクワット、リーチ、把持など
- 観る順番:開始肢位 → 移行フェーズ → 終了肢位の3つに分解して観察します。
- 代償の言語化:例「股関節の伸展不足を、腰椎の過剰な伸展で代償している」のように具体的に表現します。
3. 触診(ランドマーク→軟部)
観察で得た仮説を、「触れる」ことで検証します。
- 触る順番:骨性ランドマーク(棘突起, ASIS/PSIS, 肩甲棘など)を触知 → 関節裂隙 → 筋/腱/靭帯 → 皮下組織
- 左右差の確認:痛覚過敏や皮膚の冷感・熱感は、疼痛の複雑性を示唆します。
4. スクリーニング(関節・筋・神経)
機能障害を3つのレイヤーに分けて絞り込みます。
- 関節包内:関節の基本的な「滑り、転がり(ロール・スライド・スピン)」は保たれているか?
- 筋機能:長さ–張力関係(硬さ)や力–速度関係(出力)に問題はないか?(特に二関節筋を優先)
- 神経系:遠位の感覚・運動は正常か?必要に応じてSLR/ULNTなどで神経系の滑走性を簡易チェック。
5. 仮説→検証(原因の優先順位づけ)
集めた情報から、介入の的を絞ります。
- 原因の寄与率:関節(包内/骨運動)・筋・神経の問題が、それぞれ何%ずつ影響しているか、暫定的に配分します。
- 優先順位の決定:最も少ない介入で、最も大きな即時変化が期待できる要素を最優先します(効果検証が早いため)。
6. 介入計画(環境→キュー→エクササイズ)
介入は、成功体験を積み重ねられる順番で計画します。
- ① 環境調整:痛みや恐怖を増やす要因(ベッドの高さ、支えの有無、荷重量、動作速度)を先に取り除きます。
- ② キューイング:外的フォーカスを中心に使います(例:「膝を曲げてください」ではなく「お尻を椅子にタッチしてください」)。
- ③ エクササイズ:開放運動連鎖(OKC)→閉鎖運動連鎖(CKC)、低負荷・高反復→機能的負荷の順で段階づけします。
7. 再評価(30秒で変化を捉える)
介入効果を客観的に判断し、次の一手につなげます。
- 条件の統一:同一タスク・同一条件で介入前後の変化(Before/After)を記録します(動画撮影が理想)。
- 客観的指標:ROM、痛みのNRS(10段階評価)、反復回数、動作遂行時間、歩行速度など、数値で比較します。
- 臨床のルール:30秒以内に再評価できるシンプルな指標を必ず設定しておくことが、多忙な臨床を乗り切るコツです。
介入の優先順位を決める5つの臨床ルール
どの問題から手をつけるべきか? 迷った時は、この5つのルールを思い出してください。
- 痛み>機能>構造:急性期や疼痛が強い場合は、まず環境調整や安心感の提供を優先する。
- 包内→骨→動作:「関節の滑り」が悪いと、大きな骨運動は改善しない。根本原因である関節包内運動からアプローチする。
二関節筋は “位置” が命:ハムストリングスや大腿直筋などは、隣接関節の位置を変えるだけで機能が大きく変わる。
- OKCで学習し、CKCで応用する:まずは単関節の動き(OKC)で正しい動きを学習させ、その後に立位など(CKC)で実際の動作に転移させる。
- 1介入=1指標で検証する:一度に多くの介入をせず、「これをやったら、これが変わった」という因果関係を明確にする。
ケーススタディ:肩の挙上時痛に“評価の流れ”を当てはめる(5分ダイジェスト)
- 対象:50代女性。デスクワーク。
- 主訴:腕を上げるときの肩前面の痛み(挙上60–90°で誘発)。安静時痛はない。
- ゴール:痛みの出る角度を改善し、日常生活でのリーチ動作を楽にする。
▼評価と介入の思考プロセス(要点)▼
- 観察:患側の肩甲骨上方回旋が遅れている。胸郭前面が優位な呼吸様式。
- 動作分析:挙上初期から上腕骨(GH関節)が優位に動き、肩甲骨(ST関節)の動きが追いついていない。
- 触診:肩甲骨下角の動きが硬い。上腕骨頭後下方の軟部組織にタイトネス。
- スクリーニング:
- 包内:外転時に上腕骨頭が前方へ滑っている疑い。
- 筋:大胸筋の短縮、下部僧帽筋・前鋸筋の出力低下。
- 仮説:根本原因は「胸郭→肩甲骨→上腕骨」という運動の順序障害である。
- 介入(各30-60秒の最小ステップ):
- 呼吸誘導:背中側に空気を入れるようにキューイングし、胸郭の後方拡張を促す。
- ST関節の促通:セラピストの手で肩甲骨下角を優しく外上方へ誘導する。
- GH関節モビライゼーション:痛みがない範囲で、上腕骨頭を後下方へ軽く滑らせる。
- 再評価:同じ条件で挙上してもらう。結果、痛みの出現角度が+30°改善し、NRSも低下。
- セルフケア指導:壁に手をつき、背中側で呼吸しながら、肩甲骨をスムーズに回すイメージで腕を挙上する運動(10回×2セット/日)を指導。
このケースの狙い:介入の順番が重要です。土台である胸郭の動きを出し、次に肩甲骨の動きを安定させ、最後に上腕骨の動きを修正する。この順序を守ることで、根本的な運動パターンを再学習させることができます。
臨床でよくある失敗と3つの回避策
- 失敗①:評価→いきなり筋トレ・ストレッチ
回避策 → なぜその筋が硬い/弱いのか?という仮説(例:関節の滑りが悪いから)を立て、根本原因からアプローチする。「1介入=1指標」の原則を守る。 - 失敗②:動作の“結果”だけを指導する
回避策 → 「もっと膝を曲げて!」ではなく、環境調整(例:手すりを置く)や外的フォーカスで、無意識に正しい動きが引き出されるように学習をデザインする。 - 失敗③:再評価が曖昧で効果が分からない
回避策 → 介入前に「何を」「どうやって」測るかを決め、同一条件(カメラ位置も)で数値+映像を記録する習慣をつける。
明日から実践!60秒臨床スキルトレーニング
毎日の臨床で、この3つのタスクを60秒で実施するだけで、評価のスピードと精度が上がります。
- 立位3ポイント観察(20秒):頭頸部・胸郭/骨盤・足部のアライメントと荷重分布を素早くチェック。
- 片脚立ちテスト(20秒):骨盤の挙上/下制・回旋と、支持足の回内/回外の連動性を観察。
- 肩挙上スクリーニング(20秒):挙上初期の肩甲骨の出遅れ(上方回旋不全)や、上腕骨頭の前方偏位の兆候を見抜く。
トレーニングのコツ時間をかけず、「何かおかしいぞ?」という違和感を見つける“仮説づくりの材料集め”に徹することです。
次回予告と予習
今回の「評価の順番」は、臨床思考の土台です。次回からは、各論をさらに深掘りしていきます。
- Week2:てこ・モーメントアームの実践(なぜスクワットで膝の負担が変わるのか?)
- Week3:長さ–張力関係と二関節筋の使いこなし術
- Week4:関節包内運動(ロール・スライド)と凸凹の法則
よくある質問(Q&A)
- Q1. ブルンストローム法(回復段階)との関係は?
- A. 本連載はまず、多くの整形外科・中枢神経疾患に共通して応用できる運動学(キネシオロジー)を思考の軸に据えることを目的としています。神経回復段階の考慮が特に重要な症例については、連載後半で運動学アプローチとの接続を詳しく解説します。
- Q2. 1セッションで全部の評価を行うのは難しいのですが?
- A. すべてを網羅する必要はありません。大切なのは「30秒で再評価できる最小ループ」を回すことです。「1つの介入で、1つの指標がどう変わるか」を見極めることで、臨床の質が担保されます。
- Q3. 評価で写真や動画を撮る際の注意点は?
- A. 必ず事前に患者さんから口頭および書面で同意を得てください。撮影は顔が映らないように配慮し、もし外部で共有する場合は個人が特定できないように厳重に加工・管理します。
免責事項と倫理的配慮
- 本記事は、理学療法士・作業療法士向けの学習コンテンツであり、個別の医療判断に代わるものではありません。Red Flagsに該当する場合は、必ず医師の指示を仰ぎ、医療機関と連携してください。
- 記事内で紹介する手技や誘導は、常に痛みを最小限に抑えることを原則とし、実施前には必ず患者さんの同意を得てください。
あなたの臨床を次のステージへ導く
「統合的神経認知運動療法®︎(INCETコンセプト)」とは?
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「もっと根本から患者さんを良くしたい」
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本稿でご紹介したINCET®(統合的神経認知運動療法)は、ICFとBPSモデルを基盤に、「身体・脳・環境」の相互作用を統合的に捉えるための臨床思考フレームワークです。
患者様の「こうなりたい」という希望(HOPE)から逆算し、構造・神経・環境・発達・心理認知という5つの視点で多角的に分析。徒手療法から認知行動的なアプローチまでを体系的に組み合わせることで、神経の回復力と行動の変化を最大化します。
この思考法は、新人からベテランまで、誰もが明日からの臨床をアップデートできる実践的なツールです。アプローチの引き出しを増やし、他の療法士と差をつけたい先生は、ぜひ詳細をご確認ください。