表面的なニーズと深層ニーズ——HOPE面接が変える、デイサービスの介入の質

皆さんこんにちは。作業療法士の内山です。前回は、未来のデイサービス像と作業療法士が担う役割についてお伝えしました。今回は、利用者さんが口にする言葉の奥に隠れた「本当のニーズ」をどのように引き出し、介入に活かしていくかについて考えていきたいと思います。よろしくお願いします。

この記事でわかること

  • 利用者さんが最初に口にする言葉は「表面的なニーズ」であり、その奥には人生の文脈と結びついた「深層ニーズ」が必ず存在する
  • HOPE面接の3つのポイント(具体的な場面・感情・過去の役割)を意識することで、深層ニーズを自然に引き出せるようになる
  • 明らかになった深層ニーズをICFの4つの視点(身体・活動・参加・環境)で再構成することで、生活に直結した介入計画が立案できる

表面的なニーズと深層ニーズ

デイサービスに通い始めた利用者さんに「何を目標にしていますか?」と聞くと、多くの方がこのように答えます。「足を強くしたい」「転ばないようにしたい」「歩けるようになりたい」——これらはいずれも、利用者さんが話してくれた大切な言葉です。しかし内山は、この言葉をそのまま目標として受け取ることに、少し慎重になるようにしています。

なぜかというと、「足を強くしたい」という言葉の奥には、必ずもっと具体的な場面が隠れているからです。「孫の運動会を見に行きたい」「毎朝の散歩を再開したい」「一人でスーパーに買い物に行けるようになりたい」——その方が本当に取り戻したいのは、「強い足」ではなく、その足があることで叶えられる「生活の場面」なのです。

内山はこれを「表面的なニーズ」と「深層ニーズ」という言葉で整理しています。表面的なニーズとは、利用者さんが最初に言語化できる言葉。深層ニーズとは、その言葉の奥にある、人生の文脈と結びついた本当の希望です。介入をより意味のあるものにするためには、この深層ニーズにたどり着くことが不可欠だと内山は考えています。

📌 ポイント
「表面的なニーズ」=利用者さんが最初に言語化できる言葉(例:足を強くしたい)
「深層ニーズ」=人生の文脈と結びついた本当の希望(例:孫の運動会を見に行きたい)
介入の意味を高めるには、深層ニーズにたどり着くことが不可欠です。

HOPE面接で深層ニーズを引き出す

では、深層ニーズをどのように引き出せばよいのでしょうか。内山が実践しているのが「HOPE面接」です。これは、利用者さんの希望(HOPE)を丁寧に聴き取るための対話のアプローチで、いくつかのポイントを押さえることで、表面的な言葉の奥にある本当の声を引き出すことができます。

①具体的な場面を聞く

まず大切にしているのは「具体的な場面を聞く」ことです。「歩けるようになりたい」と言われたとき、内山は必ずこう返します。「歩けるようになったら、どんなことをしたいですか?」「どんな場所に行きたいですか?」——抽象的な目標を、生活の具体的な場面に落とし込んでいく作業です。この一言で、会話の深さがまったく変わります。

②感情に焦点を当てる

次に「感情に焦点を当てる」ことです。「それが叶ったら、どんな気持ちになりますか?」「今それができないことで、一番辛いのはどんなときですか?」——感情に触れる問いかけは、利用者さん自身が自分の本当のニーズに気づくきっかけになります。言葉では「足を強くしたい」と言っていても、感情の部分を丁寧に聞いていくと「家族に迷惑をかけていることが一番辛い」「娘の顔を見るたびに申し訳ない気持ちになる」という本音が出てくることがあります。その感情こそが、介入の原動力になります。

③過去の役割を尋ねる

そして「過去の役割を尋ねる」ことも重要なポイントです。「デイサービスに来る前は、どんなことをされていましたか?」「得意なことや、ずっと続けてきたことはありますか?」——その方が過去にどんな役割を持ち、どんな生活を送ってきたかを知ることで、その方にとって意味のある活動が見えてきます。長年料理を続けてきた方、畑仕事を生きがいにしていた方、地域の役員を担ってきた方——過去の役割の中に、深層ニーズへの手がかりが必ずあります。

✅ HOPE面接の3つのポイント
  • 具体的な場面を聞く(「歩けるようになったら、どんなことをしたいですか?」)
  • 感情に焦点を当てる(「それが叶ったら、どんな気持ちになりますか?」)
  • 過去の役割を尋ねる(「デイサービスに来る前は、どんなことをされていましたか?」)

ニーズは「機能」ではなく人生の文脈にある

内山が担当した利用者さんの中に、「階段の昇降ができるようになりたい」という目標を掲げた70代の男性がいました。初回のアセスメントでは、下肢筋力の低下と膝関節の可動域制限が主な問題として挙がり、個別機能訓練では階段昇降の練習を中心に進めていました。

しかしHOPE面接を重ねる中で、その方が本当に求めていたものが見えてきました。その方の自宅は2階建てで、仏壇が2階にある。毎朝手を合わせて1日を始めることが、長年の習慣だった。階段を上れなくなったことで、その習慣が途切れてしまっていた——「階段昇降」という目標の奥には、「毎朝仏壇に手を合わせたい」という、その方にとって深い意味を持つ生活の場面があったのです。

この深層ニーズが明らかになったことで、介入の質が変わりました。単なる筋力強化と可動域訓練だけでなく、「仏壇の前に立つ」という場面を具体的にイメージしながら訓練を進めることで、その方のモチベーションが大きく高まりました。3ヶ月後、その方は自宅の階段を自力で昇れるようになり、「毎朝また手を合わせられるようになった」と報告してくださいました。

💡 この事例から学べること
機能の改善はあくまで「手段」です。ニーズは常に、その方の人生の文脈の中にあります。「仏壇に手を合わせる」という場面を共有することで、訓練の意味が利用者さん自身にとっても明確になり、モチベーションが大きく変わりました。

4つの視点でニーズを再構成する

深層ニーズが明らかになったら、それを身体・活動・参加・環境の4つの視点で再構成することで、具体的な介入計画に落とし込んでいきます。

たとえば「孫の運動会を見に行きたい」という深層ニーズが明らかになった場合、内山はこのように考えます。

身体の視点

運動会の会場を歩き回れるだけの歩行耐久性と下肢筋力が必要です。

活動の視点

外出動作全般の練習、特に不整地での歩行や長距離移動の練習が必要です。

参加の視点

実際に外出する機会を段階的に増やし、「外に出ること」への自信をつけていく必要があります。

環境の視点

運動会当日の移動手段や同行者の確認、会場での座席確保など、環境面の調整が必要です。

🗺 深層ニーズ × ICF4視点の考え方
深層ニーズは羅針盤であり、4つの視点(身体・活動・参加・環境)はその羅針盤に従って航路を引くための地図だと内山は考えています。1つの深層ニーズをこの4軸で分解することで、「何をどの順番でアプローチすればよいか」が自然と明確になります。

まとめ

  1. 利用者さんが最初に言語化する言葉は「表面的なニーズ」であることが多く、その奥には人生の文脈と結びついた「深層ニーズ」が必ず存在する。
  2. HOPE面接において「具体的な場面を聞く」「感情に焦点を当てる」「過去の役割を尋ねる」という3つのポイントを意識することで、深層ニーズを引き出すことができる。
  3. 明らかになった深層ニーズを身体・活動・参加・環境の4つの視点で再構成することで、生活に直結した具体的な介入計画を立案することができる。

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