痛覚変調性疼痛に対するリハビリ戦略 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜

痛覚変調性疼痛に対するリハビリ戦略 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜

こんにちは、理学療法士の赤羽です。

疼痛について解説するシリーズ第12回目です。前回は、神経メカニズム的分類から「神経障害性疼痛」について解説しました。今回は、痛覚変調性疼痛について詳しく見ていきましょう。

1. 痛覚変調性疼痛の概要

1.1 定義と特徴

痛覚変調性疼痛(Nociplastic pain)は、以下のように定義されています:

「侵害受容の変化によって生じる痛みであり、末梢の侵害受容器の活性化を引き起こす組織損傷またはそのおそれがある明白な証拠、あるいは、痛みを引き起こす体性感覚系の疾患や傷害の証拠がないにも関わらず生じる痛み」

この痛みの特徴として中枢性感作や下行性疼痛抑制系の機能障害が大きく関与すると考えられています。特徴の一つに痛みの過敏性等が挙げられます。

1.2 代表的な疾患例

痛覚変調性疼痛が関与する代表的な疾患には、以下があります:

  • 繊維筋痛症
  • 慢性腰痛
  • 過敏性腸症候群
  • 片頭痛

これらの疾患では、痛みだけでなく、疲労感や睡眠障害などの全身症状も伴うことが多いのが特徴です。

1.3 発症メカニズム

痛覚変調性疼痛の発症には、以下のメカニズムが関与していると考えられています:

  • 中枢感作(central sensitization):脳や脊髄での痛覚処理が過敏になる
  • 慢性ストレス:継続的なストレスが痛みの感受性を高める
  • 睡眠障害:質の良い睡眠の不足が痛みの閾値を下げる

2. 痛覚変調性疼痛へのリハビリテーションアプローチ

2.1 患者教育

患者教育は痛覚変調性疼痛の管理において非常に重要です。以下の点を重視します:

  • 痛みの原因が必ずしも身体の損傷に基づいているわけではないことの理解
  • 運動等の重要性の説明
  • 患者の現在の困りごとを傾聴し、解決策を共に考える
  • 痛みに対する不安や恐怖を減らし、悪循環を断ち切る
  • 自己管理やライフスタイルの改善の促進

2.2 運動療法

慢性疼痛に対する効果的な運動療法には、以下のポイントがあります:

  • 体力や普段の身体活動量を考慮
  • 低強度から開始
  • 継続的な運動による身体活動量の漸増
  • 有酸素運動の積極的な取り入れ(慢性疼痛の改善に関与する可能性)

2.3 認知行動療法(CBT)

認知行動療法は、痛みへの認知を変える有効なアプローチです:

  • ネガティブな思考や行動パターンの再評価
  • ポジティブな行動への導き
  • 痛みに対する新しい対処戦略の学習

3. まとめ

痛覚変調性疼痛は、最近定義されたばかりの概念で従来の痛みの分類とは異なる特徴を持ちます。患者への教育や、緩やかな運動の導入、認知行動療法の併用が効果的な対策となり得ます。また、自己管理能力を高めることで、患者が自分の痛みをコントロールできる感覚を持つことが重要です。

  1. 痛覚変調性疼痛は中枢性感作や下行性疼痛抑制系の機能障害が大きく関与すると考えられている
  2. 慢性ストレスや睡眠障害なども影響している
  3. リハビリテーションアプローチとして患者教育や運動療法、認知行動療法等がある

確認問題

以下の質問に答えて、学んだ内容を復習しましょう。

  1. 痛覚変調性疼痛の定義に含まれる要素は何ですか?
  2. 痛覚変調性疼痛に関与すると考えられる代表的な疾患を3つ挙げてください。
  3. 痛覚変調性疼痛の発症メカニズムとして考えられているものは何ですか?
  4. 痛覚変調性疼痛に対する運動療法のポイントを2つ挙げてください。
  5. 認知行動療法(CBT)の目的は何ですか?
回答を表示
  1. 侵害受容の変化、組織損傷の証拠がない、体性感覚系の疾患や傷害の証拠がない
  2. 繊維筋痛症、慢性腰痛、過敏性腸症候群(他に片頭痛も含まれます)
  3. 中枢感作(central sensitization)、慢性ストレス、睡眠障害
  4. 低強度から開始すること、継続的な運動による身体活動量の漸増
  5. ネガティブな思考や行動パターンを再評価し、ポジティブな行動に導くこと

この記事を通じて、痛覚変調性疼痛についての理解が深まったでしょうか?次回は、さらに疼痛管理の具体的な方法について掘り下げていきます。お楽しみに!

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参考文献

  1. Argoff CE, Dubin A, Furlan A, et al. A Latin American consensus meeting on the essentials of mixed pain. Pain Rep. 2023;8(2):e1050. Published 2023 Mar 21. doi:10.1097/PR9.0000000000001050
  2. Castellanos JP, Woolley JD, Liang KE. LSD and psilocybin for chronic nociplastic pain: A narrative review of the literature supporting the use of classic psychedelic agents in chronic pain. J Psychopharmacol. 2023;37(5):503-519. doi:10.1177/02698811231158332
  3. Anim-Somuah M, Smyth RM, Cyna AM, Cuthbert A. Non-Pharmacological Pain Management in Labor: A Systematic Review. Cochrane Database Syst Rev. 2023;3(3):CD009223. Published 2023 Mar 7. doi:10.1002/14651858.CD009223.pub4
  4. Kang R, Dong J, Lu M, et al. Novel Techniques for Musculoskeletal Pain Management after Orthopedic Surgical Procedures: A Systematic Review. J Pain Res. 2023;16:1121-1136. Published 2023 Mar 17. doi:10.2147/JPR.S401922

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