皆さんこんにちは。作業療法士の内山です。
前回は、利用者さんが抱える「本当のニーズ」をどのように引き出すかについてお伝えしました。今回は、そのHOPEを引き出すための「最初の一言」に焦点を当てて考えていきたいと思います。よろしくお願いします。
この記事の要点
- 最初の一言が「安心感」を形成し、その後の関わりの重要な土台となる。
- 「否定しない」「沈黙を待つ」といったセラピューティック・コミュニケーションが、深い自己開示を促す。
- 引き出したHOPEを「4つの視点(ICF)」で分析し、実現可能な介入計画へ繋げる。
最初の言葉が、その後の関係性の土台になる
デイサービスで利用者さんと関わるとき、最初にかける言葉を皆さんはどれほど意識しているでしょうか。
「今日は体操からですね」「血圧を測りましょう」——こうした言葉は業務として自然に出てくるものですが、内山はこの「最初の一言」が、その後の関係性と介入の質を大きく左右する土台になると考えています。
人は最初に受けた印象や言葉のトーンで、その場が「安心できる場所かどうか」を瞬時に判断します。スタッフから最初にかけられた言葉が「こなすべき作業の始まり」を告げるものだった場合、利用者さんは自然と受け身の姿勢になりやすくなります。
一方、最初の一言が「あなたのことを知りたい」という姿勢から発せられたものであれば、利用者さんは自分の言葉で話し始めやすくなります。その安心感こそが、HOPEを引き出すための出発点です。
内山が心がけているのは、「今日は体操からですね」ではなく、「最近、楽しみにしていることはありますか?」といった開かれた問いかけから始めることです。たったこれだけの違いで、その後の対話の深まりが大きく変わります。
HOPEを引き出す問いかけの具体例
では、HOPE(希望)を探索するために、どのような言葉をかければよいのでしょうか。私が現場で大切にしている問いかけをいくつかご紹介します。
「またやってみたいことはありますか?」
この問いは、利用者さんが過去に諦めてしまったことや、心に秘めている想いを引き出します。「またやってみたい」という言葉の中には、その方の「まだ諦めていない意志」が込められています。
「昔、好きだったことや得意だったことは何ですか?」
過去の役割や生きがいを振り返る問いかけです。人は自分の得意なことを話すとき、表情が自然と輝きます。その表情の変化こそが、介入のヒントになります。
「もし痛みや不自由さがなかったら、何をしたいですか?」
身体的な制約を一旦脇に置いて、本当の望みを聞き出すための問いです。「どうせ無理だから」という心の壁を越えて、深層にあるニーズに触れるきっかけになります。
問いかけの際に注意すべき3つの原則
対話を通じてHOPEを育むには、セラピューティック(治療的)なコミュニケーションの視点が欠かせません。
1. 詰問にならないこと
質問を重ねすぎると、利用者さんは尋問されているような気持ちになってしまいます。1つ問いかけたら、答えをゆっくり待つ。そして一度「そうなんですね」と受け止める。このリズムが、信頼関係の構築には不可欠です。
2. 否定しないこと
「それは難しいですね」という評価的な言葉は、利用者さんの口を閉ざしてしまいます。たとえ現実的には困難な希望であっても、まずは「そんな想いがあるんですね」と受容する。その希望の奥にある「達成感」や「喜び」の本質を一緒に探していく姿勢が大切です。
3. 沈黙を待つこと
沈黙は、利用者さんが「自分の本当の気持ち」を整理している大切な時間です。沈黙を無理に埋めようとせず、ただ寄り添って待つ。その「待ち」の姿勢が、表面的な答えではない、深いところにある言葉を引き出す助けとなります。
HOPEから4つの視点(ICF)へ展開する
引き出されたHOPEは、そのままでは「ただの夢」で終わってしまうかもしれません。それを身体・活動・参加・環境の4つの視点に展開することで、初めて具体的な介入計画へと変わります。
たとえば「また孫と公園で遊びたい」というHOPEがある場合、以下のように整理します。
- 身体:歩行耐久性や下肢筋力の維持・向上。
- 活動:段差や不整地を想定した歩行訓練、外出動作の練習。
- 参加:家族との外出計画、デイでの屋外歩行からの段階的ステップアップ。
- 環境:移動手段の確認、家族への助言や協力体制の構築。
HOPEは偶然見つかるのを待つものではなく、意図的な関わりと丁寧な関係構築によって育まれるものです。そして、そのHOPEを多角的な視点で分析することで、私たちの介入は単なる機能訓練を超え、「生活の再建」へと繋がっていきます。
最初の一言——それは単なる挨拶ではなく、その方の人生に向き合うための、大切な第一歩です。
まとめ
- 最初の一言が信頼関係の土台を作る:「あなたのことを知りたい」という姿勢が、利用者さんの主体性を引き出す。
- 治療的な対話技術を意識する:「詰問の回避」「受容」「沈黙の尊重」によって、本音が語れる場が生まれる。
- HOPEをICFの視点で具体化する:身体・活動・参加・環境に展開することで、希望が実現可能な目標へと変換される。
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