腰椎椎間板ヘルニアと下肢痛、そのメカニズムとリハビリ 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜

はじめに

こんにちは、理学療法士の赤羽です。今回は、理学療法士・作業療法士の皆さんからよく寄せられる「腰椎椎間板ヘルニアによる下肢痛」のメカニズムと、効果的なリハビリテーションアプローチについて解説します。

「腰椎椎間板ヘルニアで神経根が圧迫されると、なぜ末梢の下肢に痛みが出るのか?」
これは、感覚神経が求心性であることを考えると、一見矛盾しているように思えますよね。この記事では、その疑問を解消し、臨床でのアプローチに役立つ情報を提供します。

腰椎椎間板ヘルニアによる下肢痛のメカニズムとは?

腰椎椎間板ヘルニアによる下肢痛は、神経根の圧迫だけでなく、中枢性感作という現象が深く関わっています。

  • 神経根の圧迫による下肢痛

腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の髄核が外側へ突出し、神経根を圧迫することで発症します。この圧迫が神経根の興奮を引き起こし、その支配領域全体に痛みを広げます。例えば、L5神経根が障害される場合、臀部~大腿後面や足部~母趾の痛み・しびれが広がることがあります。

この現象は、脳が神経根支配領域全体を「危険信号」として認識することで生じるものです。これは、単純な感覚神経の構造では説明できない、脳の情報処理機能によるものと考えられます。

  • 中枢感作による痛みの増幅

神経根の圧迫が続くと、C線維やAδ線維といった痛みの受容器が過敏化し、脊髄での中枢感作が引き起こされます。この過敏化は痛みの感覚を増幅させ、神経根支配領域を超えた部位にも痛みを広げる原因となります。このため、腰椎椎間板ヘルニアの下肢痛は、単なる局所的な神経障害ではなく、中枢神経系の過敏性が関与しているといえます。

つまり、脳は神経根の圧迫部位だけでなく、その神経が支配する領域全体を「危険な状態」と認識し、痛みとして知覚するのです。この現象は、単純な感覚神経の求心性伝導だけでは説明できません。

腰椎椎間板ヘルニアに対する効果的なリハビリテーション【4つのポイント】

腰椎椎間板ヘルニアによる下肢痛に対するリハビリテーションでは、以下の4つのポイントを重視します。

  1. 詳細な評価:
    • SLRテストや神経学的検査(筋力、感覚、反射)で、どの神経根が障害されているかを特定。
    • 動作分析で腰椎・骨盤周囲の可動性や筋機能を評価し、痛みの原因となるメカニズムを把握。
  2. 運動療法:
    • 腰椎の安定性向上:腹横筋や多裂筋などの体幹深部筋を強化し、椎間板への負荷を軽減(ドローイン、プランクなど)。
    • 周囲関節の可動域改善:股関節や胸椎の可動域制限は、腰椎への負担を増加させるため、ストレッチやモビライゼーションで改善。
    • 骨盤帯の柔軟性を向上させる運動
  3. 神経モビライゼーション:神経根や末梢神経の滑走性を改善し、圧迫による痛みやしびれを軽減。
  4. 患者教育:
    • 痛みのメカニズムを分かりやすく説明し、患者さんの不安を軽減。
    • 正しい姿勢や動作、日常生活での注意点を指導し、再発予防を促す。

物理療法として温熱療法、TENS(経皮的電気刺激療法)も痛みの緩和、運動療法をサポートします。

まとめ|腰椎椎間板ヘルニアによる下肢痛への包括的アプローチ

  1. 腰椎椎間板ヘルニアによる下肢痛は、神経根の圧迫と中枢性感作が複合的に関与する。
  2. 理学療法では、腰椎の安定性向上、周囲関節の可動域改善、神経モビライゼーションを組み合わせた包括的なアプローチが重要。
  3. 患者教育を通じて、痛みのメカニズムの理解と、再発予防のためのセルフケアを促す。

保存療法で効果が得られない場合は、手術も選択肢となります。

さらに深く学びたい方には、以下のコースがおすすめです。

慢性疼痛に対する痛み・神経の科学的根拠をもとにした末梢神経への徒手介入法 〜DNM(Dermo Neuro Modulating)〜 BASICコース

参考文献

  1. 小島利脇ら,第5腰神経根障害による仙骨部痛,整形外科75巻7号:709~715,2024
  2. 一般財団法人 日本痛み財団:いたみの教科書―「疼痛医学」ダイジェスト版,医学書院,2021
  3. 沖田 実, 松原 貴子,ペインリハビリテーション入門,三輪書店,2020
  4. 川村博文ら:疼痛に対する物理療法・運動療法,Jpm J Rehabili Med 2016:53:604-609
  5. 日本整形外科学会, 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン 2021 改訂第3版, 南江堂.
  6. 中村隆一 他, 標準理学療法学 専門分野 骨関節理学療法学, 医学書院.
  7. 日本整形外科学会, 腰痛診療ガイドライン 2019 改訂第2版, 南江堂.
  8. H Soar, et al., Lumbar radicular pain, BJA Educ. 2022 Aug 1;22(9):343–349.

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