患者さんの姿勢を整える「ポジショニング」。日々の臨床で当たり前に行っているこのケアですが、「なぜポジショニングを行うのか?」と改めて問われたら、明確に答えられますか?
「安楽のため?」
「褥瘡予防のため?」
もちろんそれらも重要です。しかし、リハビリ専門職が行うポジショニングの意義はそれだけではありません。
ポジショニングは、リハビリテーションの効果を最大限に引き出すための重要な準備段階であり、患者さんのQOL(生活の質)向上に直結する専門的な技術です。
今回は、見過ごされがちなポジショニングの奥深さについて、現場でよく挙がる3つの疑問にお答えしながら、日々のケアをさらに一歩進めるためのヒントをお届けします。
この記事はこんな人におすすめ
- ポジショニングやシーティングの重要性は理解しているが、臨床での活かし方に悩んでいる
- リハビリの効果がなかなか上がらず、アプローチを見直したいと考えている
- ポジショニングやシーティングが診療報酬の対象になるか、算定要件を正確に知りたい
この記事で解決する3つの疑問
- ポジショニングとは?
⇒目的や定義を領域別にわかりやすく整理。 - シーティングとの違いは?
⇒2つの関係性がシンプルに理解できる。 - リハビリでの意義と算定は?
⇒リハビリ効果を高める理由と、疾患別リハビリテーション料の算定可否がわかる。
【Q1】そもそも「ポジショニング」とは?
ポジショニングの定義は、領域ごとに共通の目的を持ちつつも、それぞれの専門性に基づいたニュアンスの違いがあります。
領域別のポジショニングの定義
- 急性期(成人)領域
苦痛を緩和し、手術後合併症の予防、早期回復に繋がる体位の工夫のこと。 - 慢性期(成人)領域
廃用症候群の予防、慢性疾患からくる症状の改善、患者の安楽や気分転換のための体位の工夫のこと。 - リハビリテーション領域
機能障害を最小限にとどめ、合併症を予防し、その後の機能訓練を効果的に進めるために最も重要な技術であり、体位を適切に変化・保持すること。
このように多角的な側面がありますが、大久保らは「対象の状態に合わせた体位や姿勢の工夫や管理をすること」と定義しています。
ポジショニングの包括的な目的
- 安楽、円滑で安全な治療・検査の実施
- 合併症(二次障害)や廃用症候群の予防
- 気分転換、QOLの向上(心理・身体・社会的側面)
- 現在もしくは将来的に、より良い日常生活行動をとれるようにすること
- 寝返り、起き上がり、座位、立位などの基本的動作を維持・改善すること
【Q2】「ポジショニング」と「シーティング」の違いは?
次に、よく混同されがちな「シーティング」との違いを解説します。
日本シーティング・コンサルタント協会は、シーティングを以下のように定義しています。
椅子・車椅子を利用して生活する人を対象に、座位に関する評価と対応(機器の選定、調整、マネジメントなどを含む)を行うこと
目的は、適切な座位姿勢を実現することで二次的障害を予防し、活動と参加を促進、心身機能の改善を促すことです。
つまり、2つの関係性は以下のように捉えると非常にシンプルです。
ポジショニング:臥位や座位など、すべての体位に対する工夫や管理
シーティング:ポジショニングの中で「座位」に特化した工夫や管理
シーティングは、ポジショニングという大きな枠組みの中の、専門的な一分野と理解すると良いでしょう。
【Q3】リハビリテーションでのポジショニングの意義と算定の可否は?
リハビリ専門職にとって最も重要なのが、この視点です。
リハビリテーション通則には、「実用的な日常生活における諸活動の実現を目的として行われるものである」と明記されています。
ポジショニングは、それ単体で疾患別リハビリテーション料を算定するものではありません。しかし、個別療法(機能訓練やADL訓練)の効果を最大限に引き出すための前段階、あるいは個別療法の一環として実施される、治療に不可欠な要素です。
治療におけるポジショニングの具体例
- ポジショニングによって筋緊張が緩和され、その後の関節可動域訓練が効果的に行えた。
- ポジショニングによって嚥下機能が改善し、その後の摂食・嚥下訓練が安全に行えた。
- ポジショニングによって車いす上での姿勢が安定し、その後の移動訓練がスムーズに行えた。
このように、ポジショニングは「実用的な日常生活における諸活動の実現を目的とした治療」の一部と明確に解釈できます。
シーティングは疾患別リハビリテーション料を算定できる
さらに、シーティングに関しては、特定の条件下で疾患別リハビリテーション料の算定が可能であると、厚生労働省の疑義解釈で示されています。
【重要】算定できるシーティングのポイント(平成29年度 疑義解釈より)
(問4)いわゆる「シーティング」として、理学療法士等が、車椅子や座位保持装置上の適切な姿勢保持や褥瘡予防のため、患者の体幹機能や座位保持機能を評価した上で体圧分散やサポートのためのクッションや付属品の選定や調整を行った場合に、疾患別リハビリテーション料の算定が可能か。
(答)算定可能。
この場合の「シーティング」とは、車椅子上での姿勢保持が困難なため、食事摂取等の日常生活動作の能力の低下をきたした患者に対し、理学療法士等が、車椅子や座位保持装置上の適切な姿勢保持や褥瘡予防のため、患者の体幹機能や座位保持機能を評価した上で体圧分散やサポートのためのクッションや付属品の選定や調整を行うことをいい、単なる離床目的で車椅子上での座位をとらせる場合は該当しない。
※詳細な算定要件や解釈については、必ず最新の診療報酬改定の通知や厚生労働省のQ&Aを確認するか、所属機関の担当部署にご相談ください。
知識を定着!振り返り問題
問題1:ポジショニングの目的として挙げられていないものはどれですか?
- 廃用症候群の予防
- 安楽の提供
- 患者の病気の治癒
正解:3
解説:大久保らの定義として「廃用症候群の予防」や「安楽」などが目的として挙げられています。しかし、「病気の治癒」自体はポジショニングの直接的な目的ではありません。ポジショニングは、あくまで治療を安全かつ効果的に進めるための手段です。
問題2:ポジショニングとシーティングの最も大きな違いは何ですか?
- ポジショニングが病院で行われるのに対し、シーティングは在宅で行われる。
- ポジショニングがすべての体位(臥位、座位など)への工夫であるのに対し、シーティングは座位に特化した工夫である。
- ポジショニングは看護師が担当し、シーティングは理学療法士が担当する。
正解:2
解説:「ポジショニングが全ての体位への工夫であるのに対して、シーティングはポジショニングの中で座位への工夫」というのが最も明確な違いです。実施場所や担当職種は、それぞれの領域や状況によって異なります。
問題3:疾患別リハビリテーション料の算定が可能とされるシーティングの条件として、適切でないものはどれですか?
- 車椅子上での姿勢保持が困難な患者に対するものであること
- 食事摂取等の日常生活動作能力の低下が見られる患者に対するものであること
- 単なる離床目的で車椅子上での座位をとらせる場合
正解:3
解説:「単なる離床目的で車椅子上での座位をとらせる場合は該当しない」と疑義解釈に明確に記載されています。算定には、姿勢保持困難やADL低下といった具体的な問題への専門的な介入が求められます。
まとめ
今回は、ポジショニングの基本的な考え方から、リハビリテーションにおける意義、そして算定に関する疑問までを解説しました。
本日のまとめ
- ポジショニングは安楽や褥瘡予防だけでなく、リハビリ効果を高め、QOL向上を目指すための重要な技術。
- シーティングは、ポジショニングの中でも「座位」に特化した専門的アプローチ。
- ポジショニングは治療の一環であり、条件を満たしたシーティングは疾患別リハビリテーション料の算定が可能。
日々の臨床で何気なく行っているポジショニングの一つ一つに明確な目的意識を持つことで、アプローチの質は格段に向上します。この記事が、あなたの臨床のヒントになれば幸いです。
参考文献・引用文献
- 大久保暢子ら:看護における「ポジショニング」の定義について─文献検討の結果から─、日本看護技術学会誌 Vol. 10, No. 1
- 日本シーティング・コンサルタント協会: シーティングとは, (https://seating-consultants.org/whats-seating/ 2025/10/4閲覧)
- 厚生労働省: 診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示) 別表第九 リハビリテーション通則, (https://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0305-1d_0014.pdf 2025/10/4閲覧)
- 九州厚生局: 疑義解釈資料(H29.6.14), (https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000366011.pdf 2025/10/4閲覧)









